給料明細を開くと、所得税や住民税と並んで「厚生年金保険料」「健康保険料」「介護保険料」「雇用保険料」といった社会保険料が天引きされています。金額としては税金に匹敵する、あるいはそれ以上になることも珍しくありません。それにもかかわらず、なぜその金額になるのか、そもそも何のための保険なのかを説明できる方は意外と少ないのではないでしょうか。

この記事では、社会保険料がどのような思想のもとに設計され、どのような計算構造で金額が決まっているのかを、令和8年度の最新の保険料率とともに整理していきます。

この記事を特に注目すべき方
  • 給料から天引きされている社会保険料の内訳を、一度もきちんと確認したことがない方
  • 転職や独立を考えており、社会保険の加入条件や保険料の決まり方を把握しておきたい方
  • パート・アルバイトの働き方を検討しており、社会保険の加入要件を知りたい方
  • 社会保険料と税金の関係(社会保険料控除)を理解し、手取りの構造を立体的に把握したい方
この記事のポイント
  • 社会保険は厚生年金・健康保険・介護保険・雇用保険・労災保険の5種類の総称である
  • 厚生年金・健康保険と、40~64歳の会社員が負担する介護保険は、「標準報酬月額・標準賞与額」という区分値をもとに計算され、雇用保険だけは実際の支給額を基準に計算される
  • 保険料は原則として労使折半だが、雇用保険は事業主負担がやや大きく、労災保険は事業主が全額負担する
  • 令和8年度から新たに「子ども・子育て支援金」の徴収が始まっている
  • 加入者が負担する社会保険料は年収の概算15%前後で、税金と異なり定率・上限ありという逆進的な性格を持つ

1. 社会保険とは何か

1-1. なぜ「保険」として強制加入なのか

社会保険とは、会社に勤める正社員や、一定の条件を満たした非正規社員に加入が義務づけられている公的保険の総称です。厚生年金保険、健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5種類からなり、それぞれ老後の所得保障、医療費負担の軽減、介護が必要になったときの給付、失業・休業時の給付、業務上のケガや病気への給付という異なるリスクをカバーしています。

社会保険は、厚生年金保険、健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5種類

ここでまず押さえておきたいのは、なぜこれらが「民間保険」ではなく「社会保険」として、加入が強制されているのかという点です。民間保険であれば、加入するかどうか、どの程度の保障を選ぶかは個人の自由であり、保険料も個々のリスクに応じて設定されます。これに対して社会保険は、老齢・疾病・介護・失業・労働災害という誰もが直面しうるリスクを、社会全体であらかじめ分散して備えるという考え方に立っています。加入を個人の判断に委ねてしまうと、リスクが低いと考える人ほど加入を避け、結果として保険としての機能が成り立たなくなるためです。強制加入という仕組みそのものが、「支え合い」を制度として成立させるための前提になっているのです。

この強制加入という仕組みは、財政方式とも深く結びついています。厚生年金保険は、積立方式(自分が納めた保険料を将来の自分のために積み立てておく方式)ではなく、賦課方式(その時々の現役世代が納める保険料を、同じ時期の受給者への給付にそのまま充てる方式)を基本としています(出典①)。賦課方式は、物価や賃金の変動に応じて給付水準を調整しやすいという利点がある一方で、現役世代の人数が受給世代を支えられるだけの規模で確保されていることが前提になります。加入を任意にしてしまうと、支え手となる現役世代からの保険料収入が不安定になり、国民全体を対象とする年金制度を安定的に運営することが難しくなります。

一方、健康保険や介護保険は、年金のように将来に向けて給付を積み立てる制度ではなく、その年度の保険料や公費を、主として同じ年度の医療・介護給付に充てる、単年度収支を基本とした短期の保険です。財政方式は年金と異なりますが、ここでも加入者の母数が小さくなったり、リスクの低い人ばかりが抜けてしまったりすれば、収支のバランスは崩れやすくなります。強制加入は、単に「みんなで支え合う」という理念にとどまらず、年金・医療・介護それぞれの財政の仕組みを機能させるための制度的な裏付けでもあるのです。

1-2. 5種の保険の概要

ここからは、5種類の社会保険がそれぞれどのような役割を担っているのかを確認していきます。まずは、公的年金制度の中で厚生年金保険がどのように位置づけられているかを見てみましょう。

日本の年金制度は、図表1のように3階建ての構造になっています。

図表1: 日本の年金制度
  • 20歳以上60歳未満のすべての国民が加入する国民年金 (1階)
  • 会社員や公務員が加入し、基礎年金に上乗せされる厚生年金 (2階)
  • 希望者が加入するiDeCoなどの私的年金 (3階)

出典②を元に簡略化して引用

厚生年金保険は、老後の所得保障として老齢基礎年金に上乗せして支給される老齢厚生年金のほか、障害を負ったときの障害厚生年金、家計の担い手が亡くなったときの遺族厚生年金を給付する制度です。

残る4つの保険はいずれも、働くうえで生じうる別の種類のリスクに備えるものです。健康保険は、業務外の病気やけがによる医療費の自己負担を軽減します。介護保険は、要介護・要支援状態になった場合に、介護サービスの利用費用の自己負担を軽減します。65歳以上(第1号被保険者)は原因を問わず利用できますが、40〜64歳(第2号被保険者)は、末期がんや関節リウマチなど加齢に伴う16種類の特定疾病が原因である場合に限られます(出典③)。雇用保険は、失業した際の求職者給付や、育児・介護による休業時の給付を行います。そして労災保険は、業務上または通勤中の病気・けが・障害・死亡について、治療費や休業補償を行う制度です。

同じ「社会保険」という括りの中でも、厚生年金・健康保険・介護保険が加入者自身の生活保障を主眼とするのに対し、雇用保険・労災保険は雇用関係そのものに伴うリスクへの備えという性格がやや強く、後述するように保険料の負担割合にもその違いが表れています。

1-3. 加入要件と負担の違い

ここまで見てきた5種類の保険は、それぞれ加入対象となる条件や、保険料をどう分担するかの考え方が異なります。まずは全体像を一覧で整理します。

図表2: 社会保険5種類の加入要件と負担の分担
保険の種類正社員の加入パート・アルバイト等の加入要件保険料の負担
厚生年金保険70歳未満の常時雇用者は原則加入週20時間以上・月額88,000円以上・雇用2ヶ月超見込み・学生でない、かつ企業規模要件を満たす場合労使折半
健康保険75歳未満の常時雇用者は原則加入同上労使折半
介護保険40〜64歳は医療保険加入により第2号被保険者、65歳以上は第1号被保険者同左40〜64歳は労使折半、65歳以上は事業主負担なく本人が全額負担(市区町村が徴収)
雇用保険要件該当者は正規・非正規を問わず加入週20時間以上・31日以上の雇用見込み労使双方(事業主負担がやや大きい)
労災保険従業員を1人でも雇えば会社は加入義務同左(加入者ごとの条件なし)事業主が全額負担

厚生年金・健康保険のパート・アルバイト等に対する加入要件(企業規模要件を含む)は出典④に基づいています。なお、表中の賃金要件(月額88,000円以上)は2026年10月に撤廃が予定されており、いわゆる「年収の壁」をめぐる議論とも密接に関わっています。この論点は年収の壁を扱った以下の記事に譲ります。

表からも分かる通り、保険料の負担の仕方には制度ごとの考え方の違いが表れています。厚生年金・健康保険と、40〜64歳の会社員が負担する介護保険料は、会社と加入者が原則として折半(50%ずつ負担)します。雇用保険は労使双方が負担しますが、事業主の負担割合の方がやや大きく設定されています。そして労災保険は業務上のリスクに対する備えという性格から、会社が全額を負担します。労使折半という原則は、社会保険が労働者個人だけの問題ではなく、雇用関係そのものに伴う社会的なコストであるという考え方の表れだと捉えることができます。

この労使折半は、会社員に適用される仕組みです。自営業者やフリーランスが加入する国民年金・国民健康保険には、事業主に相当する存在がないため、保険料は全額が本人負担です。同じ公的年金・医療保険制度の枠組みでありながら、働き方によって負担の設計が異なっているのは、厚生年金・健康保険が「雇用契約」という関係を前提に組み立てられている制度だからです。会社員の場合、給与明細に表示される本人負担額とは別に、原則として同額を会社も負担している、という点は意外と意識されていないかもしれません。

2. 社会保険料の基準額

社会保険料を理解するうえで最も分かりにくいのが、保険料の計算に使われる「標準報酬月額」「標準賞与額」という区分値です。厚生年金・健康保険と、40~64歳の会社員が負担する介護保険の保険料は、実際の給与額そのものではなく、これらの区分値に保険料率を掛けて計算されます。

ここで、標準報酬月額は以下の表のように決められています。健康保険と厚生年金で範囲が異なっています。

図表3: 標準報酬月額
 報酬月額 標準報酬月額
(健康保険)
 標準報酬月額
(厚生年金)
円以上~円未満等級月額等級月額
0~63,000158,000188,000
63,000~73,000268,000
73,000~83,000378,000
83,000~93,000488,000
93,000~101,000598,000298,000
101,000~107,0006104,0003104,000
107,000~114,0007110,0004110,000
114,000~122,0008118,0005118,000
122,000~130,0009126,0006126,000
130,000~138,00010134,0007134,000
138,000~146,00011142,0008142,000
146,000~155,00012150,0009150,000
155,000~165,00013160,00010160,000
165,000~175,00014170,00011170,000
175,000~185,00015180,00012180,000
185,000~195,00016190,00013190,000
195,000~210,00017200,00014200,000
210,000~230,00018220,00015220,000
230,000~250,00019240,00016240,000
250,000~270,00020260,00017260,000
270,000~290,00021280,00018280,000
290,000~310,00022300,00019300,000
310,000~330,00023320,00020320,000
330,000~350,00024340,00021340,000
350,000~370,00025360,00022360,000
370,000~395,00026380,00023380,000
395,000~425,00027410,00024410,000
425,000~455,00028440,00025440,000
455,000~485,00029470,00026470,000
485,000~515,00030500,00027500,000
515,000~545,00031530,00028530,000
545,000~575,00032560,00029560,000
575,000~605,00033590,00030590,000
605,000~635,00034620,00031620,000
635,000~665,00035650,00032650,000
665,000~695,00036680,000
695,000~730,00037710,000
730,000~770,00038750,000
770,000~810,00039790,000
810,000~855,00040830,000
855,000~905,00041880,000
905,000~955,00042930,000
955,000~1,005,00043980,000
1,005,000~1,055,000441,030,000
1,055,000~1,115,000451,090,000
1,115,000~1,175,000461,150,000
1,175,000~1,235,000471,210,000
1,235,000~1,295,000481,270,000
1,295,000~1,355,000491,330,000
1,355,000~上限なし501,390,000

年金改革法案の成立により、標準報酬月額の上限が引き上げられることが決まっています。上限金額が、現在の65万円から、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円に段階的に引き上げられます。

なぜ実際の支給額をそのまま使わず、あらかじめ区分けされた金額を用いるのでしょうか。毎月変動する給与額をそのまま保険料計算に使うと、給与が変わるたびに保険料も細かく変動し、事務処理が煩雑になります。そこで、一定の幅ごとに区分した標準報酬月額を使うことで、給与の小さな変動のたびに保険料が変わることを避け、計算を簡素化しています。給与や賞与が多少変動しても標準報酬月額の等級が変わらない限り保険料は一定であり、これは加入者・事業主双方にとって計算や見通しを立てやすくする仕組みだといえます。

標準報酬月額は原則として、毎年7月1日に在籍している事業所において、その前3ヶ月(4月・5月・6月)の報酬の平均をもとに決定され、その年の9月から翌年8月まで使用されます。これを「定時決定」と呼びます。このほか、入社時に決まる「資格取得時決定」、報酬が著しく変動した際に見直す「随時改定」という仕組みもあります。

「4月・5月・6月は残業を控えた方がよい」とよく言われるのは、この3ヶ月の報酬が翌年度の社会保険料の基準になるためです。この定時決定の実務的な影響については、以下の記事で具体的な試算を交えて解説しています。

次に賞与についてですが、標準賞与額とは賞与の額から千円未満の端数を切り捨てた金額になります。ただし上限が設定されており、健康保険については年度の累計額573万円(年度は4/1から翌年3/31まで)、厚生年金は同一月の支給につき150万円が上限となります。

標準報酬月額についても厚生年金は65万円(32等級)、健康保険は139万円(50等級)が上限となっており、高所得層では実際の年収に対する保険料の割合が頭打ちになる構造になっています。この上限額は、2027年9月以降段階的に引き上げられることが年金改革関連法で決まっており、標準報酬月額の上限見直しの背景については以下の関連記事で詳しく扱っています。

一方、雇用保険だけはこうした標準額を使わず、実際の給与・賞与の支給額に直接保険料率を掛けて計算します。

雇用保険料は、標準報酬月額ではなく、毎月の賃金総額に直接保険料率を掛けて計算します。そのため、残業代などで賃金が増減すれば、雇用保険料もその月から増減します。同じ「社会保険料」という括りの中でも、保険によって計算方法が異なっている点は押さえておきたいポイントです。

3. 社会保険料の保険料率

ここまでで保険料の計算方法(基準額 × 保険料率)が整理できたので、次に肝心の保険料率を確認します。

ただし、保険料率がすべての制度で一律というわけではありません。健康保険料率は加入している保険者(協会けんぽや、企業・業界団体が運営する健康保険組合など)や地域によって異なり、雇用保険料率も業種によって水準が異なります。以下では、代表的な例として東京都・協会けんぽに加入し、一般の事業に該当する場合の令和8年度の保険料率を見ていきます。

図表4: 令和8年度の社会保険料率(東京都・協会けんぽ加入、一般の事業の場合)
保険の種類料率(労使合計)加入者負担分負担の分け方適用時期
厚生年金保険(全国一律)18.3%9.15%労使折半平成29年9月分から適用
健康保険(協会けんぽ東京支部)9.85%4.925%労使折半令和8年3月分から適用
子ども・子育て支援金(全国一律)0.23%0.115%労使折半令和8年4月分から適用
介護保険
(40〜64歳、協会けんぽは全国一律)
1.62%0.81%労使折半令和8年3月分から適用
雇用保険(一般の事業)1.35%(13.5/1,000)0.5%(5/1,000)事業主負担が
やや大きい
令和8年4月分から適用

出典⑤・⑥・⑦をもとに作成

厚生年金保険料率は平成29年9月分から18.3%で固定されており、令和8年度も変更はありません。東京支部の令和8年度の料率は9.85%で、前年度の9.91%からわずかに引き下げられました(出典⑤)。一方、協会けんぽの介護保険料率は全国一律1.62%で、前年度の1.59%から引き上げられています。健康保険料が下がっても介護保険料が上がるため、40~64歳の方は総負担額の変化を個別に確認する必要があります。雇用保険料率(一般の事業)は令和8年度は13.5/1,000で、前年度の14.5/1,000から引き下げられました(出典⑥)。

保険料率の設定方法にも制度ごとの違いがあります。厚生年金保険料率は全国一律ですが、健康保険料率は協会けんぽの場合、都道府県ごとの年齢構成や所得水準の差を調整したうえで、加入者1人当たりの医療費水準を反映して個別に設定されます。医療費の高い地域ほど料率が高くなる仕組みであり、加入者の生活習慣病予防などの取り組みが、中長期的には自分たちの住む地域の保険料率に跳ね返ってくる関係にあります。

もう一点、令和8年度の大きな変更点として、「子ども・子育て支援金」の徴収が令和8年4月分(5月納付分)から始まります。これは健康保険料と合わせて徴収されますが、少子化対策の財源として子育て世帯への給付等に充てられる制度であり、医療給付とは別の目的を持つ賦課金です。

なお、子ども・子育て支援金は、社会保険の6つ目の種類として新設されたものではありません。健康保険法上は、通常の保険料率(一般保険料率)とは区分された「支援金率」として、健康保険料の枠組みの中に位置づけられています。少子化対策の財源確保という、医療給付とは別の目的を持つ賦課金でありながら、税務上は健康保険料と合算して社会保険料控除の対象となります。この制度がなぜ医療保険料と一体で徴収される形になったのか、その財源設計の思想については以下の記事で詳しく整理しています。

4. 年収に対する負担割合とその構造的性格

ここまでの保険料率を踏まえて、年収に対する社会保険料の負担割合を概算してみます。標準報酬月額・標準賞与額は上限に達するまでは年収にほぼ比例して増加し、保険料率自体は定率であるため、年収に対する負担割合は各保険料率の合計にほぼ等しくなります。

40歳未満の会社員について、給与・賞与から控除される本人負担分の料率を合計すると、以下のようになります。

40〜64歳では介護保険料率0.81%が加わり、15.5%程度になります(65歳以上は介護保険料の徴収方法が変わり、70歳以降は原則として厚生年金保険料もかからなくなるため、この概算には当てはまりません)。ざっくり言えば、社会保険料は年収の概算15%前後、そのうち厚生年金保険料が9%強を占めていると覚えておくと全体像が掴みやすくなります。上限を超える高年収層では、この割合はやや低くなります。

具体的なイメージを掴むために、東京都で協会けんぽに加入する45歳の会社員で、標準報酬月額・雇用保険対象賃金がともに月額30万円の場合の本人負担額を計算してみます。

図表5: 本人負担の概算額(標準報酬月額・雇用保険対象賃金がともに月額30万円の場合)
保険の種類本人負担の概算(月額)
厚生年金保険料27,450円
健康保険料14,775円
介護保険料2,430円
子ども・子育て支援金345円
雇用保険料1,500円
合計46,500円

合計46,500円は、ちょうど標準報酬月額30万円の15.5%にあたります。実際には標準報酬月額と実際の給与額が一致しない場合や、円未満の端数処理があるため、給与明細の数字とは多少のズレが生じることがあります。

社会保険料は、所得税・住民税の計算上、全額が「社会保険料控除」として所得控除の対象になります。社会保険料が1万円増減すれば、あなたの所得税・住民税の税率分だけ税額にも影響が生じるという意味で、社会保険料と税金は独立した制度でありながら、手取りへの影響という点では一体で捉える必要があります。所得控除の全体像については、以下の記事で整理しています。

ここで、社会保険料の制度的な性格について、税金との対比で確認しておきたい点があります。所得税が「超過累進課税」であり、課税所得が増えるほど段階的に高い税率が適用されるのに対して、社会保険料は定率であり、かつ標準報酬月額・標準賞与額に上限が設けられています。つまり、上限に達するまでは所得に比例して負担が増えますが、上限を超えた部分については追加の負担が生じません。この結果、所得の低い層ほど所得に占める社会保険料の割合が相対的に重くなりやすいという、税とは逆方向の「逆進的」な性質を併せ持つことになります。

この構造的な課題は、現在議論が進んでいる「給付付き税額控除」の制度設計とも関わっています。低所得層の税・社会保険料負担を、給付という形でどこまで調整するかという論点は、社会保険料の逆進性という、この記事で見てきた制度の性格そのものに由来しています。関心のある方は以下の記事もあわせてご覧ください。

なお、社会保険料は「稼ぎ方」によっても負担の姿が変わります。会社員の保険料は本人と事業主が分担する一方、自営業者やフリーランスが加入する国民年金・国民健康保険には事業主負担がなく、保険料は全額が本人負担です。同じ「社会保険」という言葉で括られていても、雇用契約の有無によって負担構造がまったく異なるという点は、独立や転職を考える際に見落とされがちなポイントです。制度の建前としては、会社員も自営業者も同じ社会保険という枠組みで支え合っているはずですが、実際の負担の重さには、働き方に起因する大きな差があることを理解しておく必要があります。

まとめ

社会保険料は、厚生年金・健康保険・介護保険・雇用保険・労災保険という5つの異なるリスクに備える制度の総称です。中心にあるのは、「標準報酬月額」による簡素化と、労使折半による負担の分かち合いという2つの思想であり、雇用保険や労災保険は、その目的に応じてこの原則からあえて外れています。

給与明細に並ぶ数字は、単なる控除の羅列ではなく、社会全体でリスクをどう分かち合うかという一つの設計思想の表れです。その背景が見えてきたとき、毎月の天引きという行為の意味も、少しだけ違って見えてくるのではないでしょうか。

執筆者プロフィール

粕谷英雄
サマーオーシャンコンサルティング

1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者としての知見をもとに、お金に関する意思決定を支援。制度の仕組みや背景、資産形成の考え方を整理して発信しています。