中間管理職には、情報の伝達、進捗管理、判断、評価、人材育成、関係調整といった、性質の異なる機能が一つの職位に束ねられています。この束ね方に見合うだけの権限や報酬が用意されないまま、責任や業務量だけが膨らんでいる組織は少なくありません。その結果、優先順位の判断や部下の育成など、本来期待される機能が十分に果たされていないケースも生じています。

性質の異なる機能を一つの職位に束ね、権限や報酬を伴わないまま責任だけを負わせるという組織設計に、この機能不全の一因があります。加えて、束ねられた機能があまりに多岐にわたるため、管理職自身にとっても、何を優先すべきかが曖昧になりやすい構造です。

そこへAIが登場し、情報の集約や進捗管理などの機能を担えるようになりつつあります。AIによって一部機能を代替できた場合、人に残る役割と責任は、どこに配置されるべきなのか。本稿では、この問いを考えます。

本稿で問いかけること
  • 中間管理職が担ってきた役割とは、そもそも何だったのか
  • AIは、その役割のどこまでを引き受けられるのか
  • AIだけでは完結しない部分は、これから誰が担うのか

1. 中間管理職は、複数の機能を担っている

中間管理職は、実際には複数の異質な機能を担っています。ここでは三つの機能群に分けて整理します。

一つ目は、情報・伝達機能です。経営方針を現場の言葉に翻訳し、目標を具体的な行動へ落とし込み、進捗を把握して情報を集約する機能です。

二つ目は、判断・評価機能です。優先順位を決め、例外を処理し、部下を評価し、限られた資源をどこに配分するかを判断する機能です。

三つ目は、関係・育成機能です。部下の曖昧な相談を汲み取り、対立を調整し、信頼を形成し、次の世代を育てる機能です。

これら三つの機能群は、本来別々の性質を持つにもかかわらず、多くの組織では一人の管理職に同時に求められています。そして、その負荷の増大が、すでに表面化しています。パーソル総合研究所は、2025〜2026年の人事トレンドワードの一つとして「管理職の罰ゲーム化」を選出しています。同研究所によれば、かつて権限と報酬を伴う花形とされていた管理職というポジションは、いまや「責任過重で報われない役割」へと変容しています(出典①)。マネジメント遂行の難易度の上昇、賃金の伸び悩み、働き方改革に伴う業務の抱え込みという三つの構造的要因が、その背景にあるとされます。

この負荷の背景には、個人の力量だけでは説明しきれない構造があります。性質の異なる三つの機能群を一つの職位に束ねたうえ、多くの管理職は自らもプレイヤーとして実務を兼務することを求められています。その結果、優先順位の判断や部下の育成など、管理職に期待される機能へ十分な時間や注意を割けていない組織もあります。それは本人の資質の問題である以前に、役割の束ね方そのものが優先順位を曖昧にしているという、構造の問題である可能性があります。

このように、AIが登場する以前から、中間管理職という職位はすでにきしみを抱えていました。このきしみを抱えた状態で、AIによる機能の代替が起こったらどうなるでしょうか。負荷を下げることできしみを解消する方向にも、AIだけでは完結しにくい機能まで階層とともに切り捨てることで、きしみを悪化させる方向にも働きえます。AIによる機能の代替がもたらす功罪と組織設計について、以降の章で具体的に見ていきます。

2. 中間管理職の機能は、AIによる置き換えが始まっている

Gartnerは2024年、”Through 2026, 20% of organizations will use AI to flatten their organizational structure, eliminating more than half of current middle management positions.“(筆者訳:2026年末までに、20%の組織がAIを活用して現在の中間管理職ポジションの半数以上を削減し、組織構造をフラット化する)と予測しています(出典②)。これは実績ではなく予測ですが、AIによる階層の縮小が、組織設計上の現実的な選択肢として語られ始めたことを示しています。

より踏み込んだ動きも出てきました。決済企業Blockは2026年2月、従業員数を1万人超から6,000人弱へ減らす方針を公表したのち、創業者ジャック・ドーシー氏がSequoia CapitalのRoelof Botha氏と共著したエッセイ「From Hierarchy to Intelligence」で、企業階層の存在理由そのものを問い直しています。両氏によれば、階層とは本来、一人が効果的に管理できるのは3人から8人程度までという人間の限界を中心に構築された、情報を経路づけるための仕組みでした。エッセイの結びで両氏は、”The question was whether humans were the only option for what those layers do.”(筆者訳:問われていたのは、そうした階層の働きを担う選択肢が、人間しかないのかということだった)と述べた上で、その答えはもはや否である、と続けています(出典③)。

Blockが実際に示しているのは、中間管理職を単純に削減してその機能をAIへ移すという構想ではありません。同社は、専門的な実務を担う個人貢献者(Individual contributor)、部門横断的な課題や成果に責任を持つDRI(Directly Responsible Individual)、実務と人材育成を兼ねるプレイングコーチ(原文ではPlayer-coach)という三つの役割を提示しています。情報の集約と調整はAIを組み込んだシステムが担い、戦略や優先順位の判断はDRIが担い、技能形成や人材育成はプレイングコーチが担うという設計です。中間管理職という固定的な階層をなくしても、そこに束ねられていた機能までなくすわけではない、という考え方がここに表れています。

もっとも、この構想はBlock固有の条件に支えられています。同社はリモートファーストであり、意思決定や議論、計画、進捗が機械可読な記録として残る環境にあります。情報の多くが人の記憶や非公式な会話にとどまる組織に、同じ設計をそのまま移せるわけではありません。

この主張がどこまで当てはまるかは、1章で述べた三つの機能群(情報・伝達機能、判断・評価機能、関係・育成機能)のそれぞれについて、どの部分をAIに担わせるかによって異なります。日本経済団体連合会が2026年4月に公表した報告書は、OECDの調査を引用し、AIを含む「アルゴリズム管理ツール」(何らかのアルゴリズムに基づいた管理ツール。勤務指示、稼働状況のモニタリング、人事評価などに用いられる)を導入している企業に属する管理職の割合が、米国90%・EU平均79%に対し、日本は40%にとどまると示しています。特に評価分野では日本と米欧の差が大きく、経団連は、ジョブ型雇用のもとで評価基準が比較的明確な米国では、制度の長年の運用によってAI活用に必要なデータの蓄積が進んでいることなどを、その背景として挙げています(出典④p.4-5)。日本企業では、指示やモニタリングを含め、アルゴリズム管理ツール全般の導入が米欧に比べて遅れており、特に評価分野ではその差がいっそう大きくなっています。

出典

3. 階層をなくしても、判断の責任は残る

経団連の報告書は、HR部門におけるAI活用の大前提として「AIは、人間の意思決定のサポート」という原則を掲げています。AIに何をさせるかを決めて必要なデータを投入し、AIが検討結果を出力し、人間が判定理由を把握したうえで責任をもって最終的な意思決定を行うという三段階のステップが示されています(出典④p.12)。

この原則を体現する事例として、報告書は日本アイ・ビー・エムの昇進プロセス支援システム「HiRo」を紹介しています。マネージャーが依頼を入力すると、AIエージェントが人事システムやパフォーマンス履歴、評価履歴などの社員データを収集し、昇進基準に基づいて候補者を提示します。マネージャーは、その提示を参考にしながら、最終的な判断を自ら下します。このシステムの導入により、昇進プロセスは四半期ごとに10週間から6週間へ短縮され、人事部門のサポート業務の85%が削減されたと推計されています(出典④p.27)。

候補の抽出、データの収集、基準との照合といった作業はAIに渡せます。誰を選ぶか、なぜその判断をしたか、選ばれなかった人にどう説明するかという最終的な判断と責任は、少なくともAIだけでは完結せず、人が引き受ける必要があります。

ここで一つ、留意すべき点があります。機能を分解し、AIに渡せる部分だけを見て階層を削っていくと、既存の中間管理職が実際にどのような機能を果たしていたかを十分に把握しないまま、価値のある部分まで一緒に切り捨ててしまう危険があります。たとえば、ある課長が担当者の異動希望や離職の兆候を早期に汲み取り、事前に手を打ってきたとします。この働きは、情報・伝達機能の記録には残りにくく、判断・評価機能の成果としても数値化されにくいものです。機能を分解する作業が、可視化しやすい部分から進むのは自然なことですが、可視化しにくい部分ほど、後から気づいたときには失われている、ということが起こりえます。

同じ性質の盲点は、AIを前提に組織を新規設計する場合にも生じえます。機能が失われないようにするためには、新規設計であっても、この種の盲点への注意が欠かせません。2章で紹介したBlock自身も、”Block is in the early stages of this transition. It will be a difficult one, and parts of it will likely break before they work.“(筆者訳:Blockはこの転換にまだ着手したばかりで、その道のりは厳しく、軌道に乗るまでには、部分的にうまくいかないことも起こるだろう)と述べています(出典③)。

4. 役割が明確になれば、評価の曖昧さも減らせる

機能が分解され、人に残る役割が絞られることには、もう一つの意味があります。中間管理職としての行動を、これまでより評価しやすくなるという可能性です。

現在の管理職の評価には、複数の異なる成果が混在しがちです。部門の業績が良かったとして、それが方針を的確に示した結果なのか、管理職自身がプレイヤーとして穴を埋めた結果なのか、あるいは単に優秀な部下に恵まれた結果なのかは、外からは見分けにくいものです。リクルートマネジメントソリューションズが実施した調査(2020年)によれば、管理職が最も減らしたいと考えている業務はプレイヤー業務であり、最も時間を割きたいと考えているのは部下マネジメントです。しかし、実際に自身の時間配分を変えることについては、86.9%の管理職が「とても難しい」「やや難しい」と回答しています(出典⑤)。このデータからは、多くの管理職が、現在の時間配分を自らが望む形へ変えられずにいる状況が見えてきます。プレイヤー業務を減らして部下マネジメントへ時間を移したいと考えても、その転換は個人の意思だけでは容易ではありません。

定型的な情報集約や報告、進捗把握をAIへ移せば、人は判断・評価機能や関係・育成機能に、より多くの時間を割けるようになります。同時に、人が重点的に担う役割が明確になれば、管理職がその役割を実際に果たしたかどうかも見えやすくなります。必要な判断を行ったか、その理由を説明できるか、例外にどう対応したか、部下に必要なフィードバックを継続したか、結果をどう引き受けたか。こうした行動は、プレイヤーとしての実務に埋もれている限り、部門業績という一つの数字の裏に隠れてしまいます。

ここで一点、慎重に言葉を選ぶ必要があります。AIによる機能の代替が進んでも、育成や信頼形成といった成果を精密に数値化できるようになるわけではありません。評価がしやすくなるとすれば、その理由は測定技術が進歩するからではなく、これまで一つの職位に混在していた役割が解きほぐされ、管理職に何を期待し、何について責任を問うのかが明確になるからです。

日本企業では、中間管理職に期待される機能が十分に果たされていない場面があります。しかし、それを管理職個人の資質の問題だけで片づけることはできません。AIは、管理職を免責するための道具ではなく、曖昧に束ねられてきた役割を切り分け、人が担うべき機能を明確にする道具になり得ます。

出典

5. 階層が薄くなった先で、関係・育成機能は誰が担うのか

Gallupが2026年1月に公表した調査によれば、米国における管理職一人当たりの直属部下数は、2013年の8.2人から2025年には12.1人へと増加しています。ただし、この増加は一様に起きているわけではありません。中央値は5〜6人でほぼ横ばいの一方、管理職の13%は25人以上を管掌しており、一部の管理職に管掌人数が大きく偏る形で平均値が押し上げられています(出典⑥)。この変化自体をAIだけで説明することはできません。

情報・伝達機能や判断・評価機能の一部がAIに渡れば、一人の管理職がより多くの部下を管掌できる可能性が広がります。しかし、部下の曖昧な相談を汲み取り、信頼を形成し、人を育てるという関係・育成機能は、情報処理だけでは完結しません。管掌人数が増えるほど、一人ひとりと向き合うために割ける時間は減っていきます。

たとえば、課長という中間管理職の層がなくなり、部長が担当者を直接率いる形になったとき、課長が担っていた関係・育成機能の行き先は、大きく三つに分かれます。一つは、部長がその機能を直接引き取る形です。もう一つは、プレイングリーダーやメンター制度など、指揮命令系統とは別の役割として意図的に配置し直す形です。そしてもう一つは、誰の役割としても明示されないまま、現場の非公式な負荷として押し戻される形です。三つ目の形が起きているとき、組織図の上では階層は薄くなっていても、実態としては正式な役割や権限、評価を伴わないまま、誰かがその機能を肩代わりしているにすぎません。

第1章で触れた「管理職の罰ゲーム化」も、機能と責任は残るのに権限や報酬が伴わないという点で、この三つ目の形と共通しています。責任と業務量だけが膨らみ、権限や報酬が伴わないという構造は、階層を薄くする過程でも、意図的に設計されなければ同じ形で再生産されます。機能を分解すること自体は、罰ゲーム化を解消する方向にも、別の場所に移し替えるだけの方向にも働きうるのです。

結び

中間管理職という職位が、これまでと同じ形のまま存続することを、もはや当然の前提にはできません。人数そのものが減る形であれ、実務と人材育成を兼ねるプレイングコーチへと役割が変質する形であれ、情報の集約、進捗管理、翻訳といった機能では、AIに移せる範囲が今後さらに広がります。

AIによる機能の代替が進み、人が担う役割が明示されれば、判断や責任の所在も明確にしやすくなります。これにより、これまで作業量や部門業績に埋もれていた管理職の役割は、以前より評価しやすくなる可能性があります。しかし、AIだけでは完結させにくい機能は依然として残ります。判断の責任を引き受けること、曖昧な相談を汲み取ること、信頼を形成し、人を育てることです。これらを、階層が薄くなった組織のどこに、誰の役割として配置し直すかが問われます。この設計を怠れば、それらの機能は表向きには消えたことにされながら、正式な役割ではない非公式な負荷として、現場の誰かに押し戻されるだけです。

AIによって、課長という肩書きや組織の階層を減らす余地は広がります。しかし、その後にどの役割と責任を置くかは、AIでは決められません。そこには、人に何を期待する組織なのかという、経営の考え方そのものが表れます。

執筆者プロフィール

粕谷英雄
サマーオーシャンコンサルティング

ソフトウェア開発、情報システム刷新、DX推進などの実務知見をもとに、デジタル化に関する意思決定を支援。デジタルを経営に活かすための視点や推進の考え方を整理して発信しています。