デジタル化が進むほど、企業固有の業務に合わせて仕組みを変えていく必要は強まります。その過程で、システムの内製化は避けて通れない選択になることがあります。ただ、内製化の負荷は開発時だけに現れるものではありません。むしろ本当に重くなるのは、作ったあとに続く維持管理です。現場の要望、データ項目の追加、例外処理への対応。こうした変化に耐えられない構造のまま進むと、日々の維持管理に追われるだけでなく、自社開発の資産を将来の選択肢へつなげる余地まで狭めてしまいます。
本稿では、内製化の課題を人手不足の問題としてではなく、開発と運用をどう設計するかという意思決定の問題として捉え直します。
- 内製化の負荷は、なぜ開発よりも維持管理で重くなりやすいのか
- 開発と運用は、切り分けて考えられるのか
- 変化の多いデジタル施策において、何を自社で握るべきなのか
- 維持管理のあり方は、将来の選択肢にどう影響するのか
1. 内製化の負荷は、開発より維持管理で表面化する
内製化という言葉を聞くと、多くの場合まず思い浮かぶのは開発体制です。人を採れるのか、育てられるのか、外部に頼らずに作れるのか。たしかにそこは重要です。ただ、デジタル化の現場では、開発そのものより、その後に続く維持管理のほうが、より深い課題として表れやすいように思います。
企業固有の業務に寄り添って作られた仕組みは、導入時点で完成しきることがほとんどありません。運用を始めると、現場から細かな改善要望が出てきます。管理したい項目が増え、見たい指標が変わり、例外処理が見つかり、承認経路の見直しも必要になります。デジタル化施策は、作って終わるものではなく、使いながら修正し、育てていくものだからです。
ここで起きやすいのは、開発時には見えていなかった負荷が、維持管理業務として一気に噴き出すことです。問い合わせ対応、軽微改修、権限設定、マスタ整備、障害時の切り分け、データ不整合への対処。ひとつひとつは小さく見えても、積み重なると担当者の時間を奪い、改善に向けるべき余力を削っていきます。
しかも、この負荷は単に「作ったものを守る」ための負荷ではありません。運用を通じて業務理解を深め、設計を更新し続けるための負荷でもあります。デジタル化の重要な特徴は、仕組みを動かすこと自体が、次の意思決定に必要な情報を生み出す点にあります。どこで例外が多いのか、どの変更要求が繰り返されるのか、どの項目が実際の判断に使われているのか。維持管理をどう設計するかは、単なる運用効率だけでなく、経営に返ってくる情報の質にも関わります。その意味で、維持管理は開発と同じく、設計の対象として最初から考えておく必要があります。
内製化が苦しくなるのは、開発量が多いからだけではありません。変化し続ける業務を支え続ける構造が、最初から十分に設計されていないことに原因がある場合も少なくないのだと思います。
2. デジタル化施策では、なぜ開発と運用を分けられないのか
維持管理が重くなる局面では、「ここまでは内製で進める意味があったとしても、この先まで自社で抱え続ける必要があるのか」という問いが生まれます。たしかに、目の前の負荷を軽くしたい場面では、そう考えることは合理的に見えます。しかし、ここで立ち止まって考えたいのは、苦しくしている原因が本当に内製化そのものなのかという点です。
問題の本質は、内製化したことではなく、開発と運用を別の役割として捉え、それぞれを独立して管理できると考えてしまうことにある場合があります。従来型のシステム導入では、要件を固めて開発し、納品後は運用保守へ移すという流れが前提とされてきました。この考え方自体が常に誤りだとは言いません。ただ、変化の多いデジタル施策では、この分け方が現実に合わなくなってきています。
その理由の一つは、開発と運用の比率そのものが時間とともに変化するからです。立ち上げ期には開発の比重が高く、稼働後は運用の比重が増していきます。しかし、そこで純粋な運用フェーズに移るわけではありません。現場の要望、見るべきデータの追加、例外処理への対応、業務変更への追随によって、改善要求は継続的に発生します。つまり、開発と運用はどちらか一方に切り替わるのではなく、比率を変えながら重なり続けるのです。
この性質を持つ以上、開発部隊と運用部隊を固定的に切り分ける前提には無理が生じます。なぜこの設計にしたのか、どの例外が重要なのか、どの変更が経営指標に影響するのか。そうした判断の文脈が運用側に十分に渡らなければ、サポートは単なる受付業務に近づきます。その結果、軽微な変更にも時間がかかり、システムは徐々に使いづらくなり、現場の不満と管理側の疲弊だけが残ります。
こうした課題に対しては、DevOps の考え方が有力です。ただし、ここでいう DevOps は、開発部門と運用部門を形式的に近づけることではありません。開発と運用の比率が時間とともに変わることを前提に、その循環を自分たちで設計し、自分たちで運用する考え方として捉える必要があります。運用を考えた開発、開発可能性を踏まえた運用を、常に往復させるということです。
ただ、DevOps が概念として理解されても、現場で機能するとは限りません。そこには、体制や制度の問題だけではなく、開発と運用の仕事に対する評価の偏りが残っていることがあります。開発は新しいものを生み出す仕事として評価されやすく、運用は既存のものを支える仕事として相対的に低く見られやすい傾向があります。そうした認識のもとでは、開発側は運用を自分ごととして捉えにくく、運用側も自分たちは下流を担っていると受け止めやすくなります。すると、開発と運用を往復させるはずの DevOps は、役割を近づける考え方としてではなく、追加負荷を押しつける話として受け取られやすくなります。
しかし本来、運用は開発より低い仕事ではありません。むしろ、仕組みが現場でどう使われ、どこに摩擦があり、何が次の改善課題になるのかをいち早く捉えられる仕事です。運用を軽視したままでは、開発の質も上がりません。DevOps が機能するかどうかは、開発と運用をどうつなぐかだけでなく、その両者を組織としてどう位置づけるかにも左右されます。
これは、下記の関連記事で述べた「可逆性」を、開発と運用の構造として捉え直して考えることでもあります。外部の力を借りても、判断と設計の主導権は自社に残しておくこと。そのためには、開発と運用を切り離された工程としてではなく、比率を変えながら重なり続ける循環として捉える必要があります。
3. 正しい維持管理とは何か
では、正しい維持管理とはどのようなものなのでしょうか。それは、単に障害を減らす技術力や、運用担当者を増やすことではありません。変化が起きることを前提に、負荷が蓄積しにくく、改善が次の学習につながる構造をつくることです。
3-1. データの意味づけまで保守対象として捉えているか
維持管理というと、障害対応や問い合わせ対応だけを思い浮かべがちです。しかし、デジタル施策においては、データの意味づけを保つことも重要な保守の一部です。項目の定義が部門ごとに揺れ、入力ルールが曖昧になり、例外処理が増えると、システムは動いていても、経営判断に使えるデータは残りにくくなります。
どのデータを持ち、どう定義し、どう残すかは、将来の意思決定の質を左右します。正しい維持管理とは、単に手間を減らすことではなく、将来の意思決定に耐える情報を保ち続けることでもあります。この点については、下記関連記事でも詳しく論じています。デジタル化の運用設計は、業務を安定させるためだけでなく、経営が何を見て判断できるかを整えるための設計でもあるのです。
3-2. 問い合わせを学習に変える循環があるか
問い合わせや障害を、その場しのぎで閉じるのではなく、学習材料として扱える構造も欠かせません。頻発する問い合わせには、画面設計、権限設計、説明不足、業務ルールの曖昧さなど、何らかの原因があります。そこで生じた負荷を単なる運用コストとして処理するのではなく、設計上の改善課題として捉え直せるかどうかで、サポートの重さは大きく変わります。
この循環が機能していれば、運用は単なる後始末ではなくなります。問い合わせは、どこに摩擦があり、どこに判断の曖昧さが残っているかを示す信号になります。逆に、この記録が残らず、改善につながらないまま同じ問題が繰り返されると、組織はサポートに疲弊するだけで、仕組みは育ちません。
また、ここでも運用をどのように位置づけているかが効いてきます。問い合わせ対応を価値の低い作業と見なす組織では、その記録は蓄積されず、改善の入口にもなりにくいでしょう。反対に、運用を学習の起点と捉える組織では、そこで生じた負荷は次の設計を良くする材料になります。正しい維持管理とは、個々の負荷を減らすことだけでなく、負荷から学べる構造を持つことでもあります。
3-3. 外部人材を使っても、循環の設計は手放さない
重要なことは、開発と運用の循環を誰が設計し、誰が主導権を持つかです。すべてを自社人員で賄う必要はありません。外部人材を活用することも選択肢の一つです。ただし、その循環そのものを外に預け、自社は依頼と承認だけを担う構造にしてしまうと、徐々に判断能力は弱っていきます。
大切なのは、誰が作業を担うかよりも、どのような判断基準で改善し、どのように運用知見を蓄積し、どの時点で何を見直すかを自社で把握できていることです。そこが外部依存になると、短期的には楽になっても、長期的にはシステムをどう変えるべきか、自分たちで判断しにくくなります。外部の力を借りながらも主導権を手放さないという点では、下記関連記事で扱った論点とも重なります。
正しい維持管理とは、結局のところ、開発と運用を切り分けるのではなく、そのあいだをつなぎ続けることなのだと思います。仕組みを止めないことだけでなく、育て続けられることまで見据えて初めて、サポートは持続可能になります。
3-4. デジタルを使って負荷そのものを下げる
正しく設計された維持管理の構造は、内製化を健全な状態に保つ土台になります。ただ、維持管理の重要性がこれまで十分に認識されてこなかった組織では、正しい維持管理を実現しようとすると、かえって負荷が顕在化することもあります。そこで、デジタルの力を使って負荷そのものを下げる工夫も組み込めると、運用の持続可能性はより高まります。
一つは、軽微な変更を開発に差し戻さずに運用側で完結できる仕組みです。マスタデータの更新、通知条件の変更、権限設定の調整など、頻度は高いが影響範囲の小さい作業は、パラメータ設定の分離やローコードツールの活用によって、開発工程を経ずに対応できる場合があります。開発と運用の往復を減らすことは、双方の負荷を下げるだけでなく、改善のリードタイムを短くすることにもつながります。
もう一つは、テストと監視の自動化です。改修のたびに手動で確認を繰り返す構造では、変更コストが高くなり、結果として改善を後回しにしやすくなります。自動テストの仕組みを持つことで、変更の影響範囲を素早く確認できるようになり、小さな改善を継続しやすくなります。また、障害や異常をユーザーからの報告で初めて知る体制より、監視とアラートの設計によって事前に検知できる体制の方が、対応コストは大きく下がります。
さらに、問い合わせや障害の記録・分類を自動化し、開発へのフィードバックループを仕組みとして持つことも有効です。3-2で述べた「問い合わせを学習に変える」という考え方は、手作業で記録を整理するだけでは限界があります。発生傾向の可視化や類似事象のグルーピングをツールで支援することで、学習の精度と速度を上げられます。
ただし、これらの工夫は、3-1から3-3で述べた設計の土台があってこそ機能します。データ定義が曖昧なまま自動化を入れても、精度の低い情報が速く回るだけです。正しく設計し、その構造の上にデジタルの力を重ねる。この順序が維持管理を持続可能にする上で重要です。
4. 維持管理の設計は、安定運用だけでなく事業機会も左右する
維持管理を正しく設計することの重要性を強調すると、どうしても「運用コストを抑えるための話」に聞こえてしまうかもしれません。しかし、実際にはそれだけではありません。ここには、より経営的な意味があります。自社開発の仕組みを、将来の事業機会へつなげられるかどうかにも関わるからです。
近年では、DX の成果として、自社の業務改善のために育てた仕組みやノウハウを、別事業や他社向けのソリューションへ展開する動きも見られます。最初は社内利用のための仕組みだったものが、業界固有の課題を解くサービスへ育つことは、十分にあり得ることです。とくに、現場の課題を深く理解したうえで作られた仕組みほど、その可能性を持っています。
ただし、その可能性は、機能が揃っているかどうかだけでは決まりません。属人的な運用に支えられ、例外対応が多く、変更のたびに全体が崩れる仕組みは、社内では何とか回せても、横展開や外販には耐えられません。担当者が常に張りついていなければ成立しない構造では、別部門への展開すら難しいでしょう。
つまり、維持管理の設計が不十分だということは、日々の負荷が重いというだけではなく、自社開発資産を再利用可能な形で蓄積できていないということでもあります。それは、将来の事業機会を自ら狭めている状態とも言えます。
反対に、開発と運用の循環が設計され、データ定義が保たれ、問い合わせが改善に接続される構造を持っていれば、自社開発の仕組みは単なる社内ツールにとどまりません。業務改善の知見、設計原則、運用ノウハウを含んだ資産として育っていきます。外販までいかなくても、他部門展開、グループ展開、別事業への応用はしやすくなります。
重要なのは、事業化を最初から目標にすることではありません。あくまで、自社の意思決定に沿って設計し、運用し、改善してきた結果として、展開可能性が生まれるという順序です。その可能性を残すためにも、DevOps の循環を自分たちで設計し、自分たちで握っておく意味は大きいのだと思います。
結び
内製化が難しいのは、単に作る人材を集めることが難しいからではありません。作ったあとに続く維持管理を、どのような構造で支えるかまで問われるからです。そしてその問いは、運用の効率だけにとどまりません。どの知見を社内に残すのか、どの判断を自分たちで担い続けるのか、どこまで展開可能な資産として育てられるのかという、経営の問いにもつながっています。
変化の多いデジタル施策では、開発と運用をきれいに分けることは難しくなっています。比率を変えながら重なり続ける両者をどう設計するか。その視点なしに、内製化を持続可能なものにすることは難しいでしょう。だからこそ必要なのは、DevOps を掛け声として導入することではなく、運用を見越して開発し、開発可能性を踏まえて運用を整える循環を、自分たちで設計することです。
その際、技術や制度だけを整えても十分ではありません。開発と運用のどちらに価値があるのかという見方が分かれたままであれば、循環は形だけのものになりやすいからです。運用を軽い仕事と見なさず、そこで得られる知見を改善の起点として扱えるかどうかが、DevOps の実質を左右します。
その構造が整っていれば、サポートは単なる後始末ではなくなります。日々の維持管理のなかに蓄積された知見が、次の改善を支え、経営判断の材料を整え、場合によっては次の事業機会を開いていきます。維持管理を正しく設計するとは、負荷を見えなくすることではなく、変化に耐えながら資産を育てていける状態をつくることなのかもしれません。
粕谷英雄
サマーオーシャンコンサルティング
ソフトウェア開発、情報システム刷新、DX推進などの実務知見をもとに、デジタル化に関する意思決定を支援。デジタルを経営に活かすための視点や推進の考え方を整理して発信しています。



