デジタルが事業の競争力に直結するようになり、システムやデジタル施策を外部へ任せきりにせず、自社にも内製力を持つ必要性が認識されるようになりました。しかし、内製化の必要性に異論がなくても、すべての領域を自社で担える企業は多くありません。人材も予算も限られる中で、次に問われるのは、その力をどこに使うかです。

本稿では、内製と外部委託の境界ではなく、内製力の配分に焦点を当てます。顧客に選ばれる理由や競争優位につながる領域をどう見極め、その領域で課題設定、設計、実装、検証、改善という学習の循環を自社に蓄積していくかを考えます。

本稿で問いかけること
  • 社内に中核機能を持てば、それだけで内製力は競争力に結びつくのか
  • 事業継続上重要な領域と、コアコンピタンスと呼べる領域(コア領域)はどう違うのか
  • 内製化によって、企業は何を学び、何を蓄積するのか
  • 限られた内製力を、どの領域へ集中させるべきか
  • コア領域への集中は、外部の力を使わないことを意味するのか

1. 内製力をどこに使うか ~重要な領域とコアコンピタンスの違い~

内製化を考えるとき、最初に整理すべきなのは、どの機能を社内に残し、どの機能を外部に委ねるかです。事業課題の定義や設計方針、優先順位、成果評価まで外部へ委ねてしまえば、社内には委託先を管理する機能しか残らず、自社で進む方向を決められなくなります。

以下の関連記事では、実装のすべてを社内で行うことが内製化なのではなく、方向を決め、判断の理由と知見を蓄積する中核機能を持つことが基礎的な条件だと整理しました。

しかし、中核機能を社内に持つことと、その力を全社のどこへ重点的に投入するかは、別の問題です。会計、人事、端末管理、販売管理、顧客向けサービスのいずれについても、社内に一定の判断能力は必要ですが、同じ人数と技術力を投入する必要があるとは限りません。他社と共通する仕組みで十分な領域もあれば、改善の速さや設計の違いが、そのまま顧客価値や競争力の差になる領域もあります。

ここでは、社内に保持する「機能」と、内製力を投入する「領域」を区別する必要があります。機能とは、課題を定義し、設計し、実装し、評価するために必要な能力です。領域とは、その能力をどの事業、商品、顧客接点、業務へ重点的に使うかという対象です。前者を持っていても、後者を誤れば、内製人材は競争力につながらない個別対応や維持管理に費やされます。

1-1. 止められない業務が、競争力の源泉とは限らない

コアコンピタンスという概念を提示したC・K・プラハラードとゲイリー・ハメルの定義によれば、コアコンピタンスとは「市場において企業を際立たせる、複数の経営資源とスキルの調和的な組み合わせ」(”a harmonized combination of multiple resources and skills that distinguish a firm in the marketplace”)です。これを見極める基準として、次の3つが挙げられています(出典①)。

  • 展開可能性:新たな機会を定義し、多様な市場へのアクセスをもたらすこと(”potential access to a wide variety of markets”)
  • 競争優位への貢献度:最終製品・サービスにおいて顧客が認識する価値に大きく貢献すること(”a significant contribution to the perceived customer benefits”)
  • 模倣困難性:競合他社による模倣が困難で、持続的な競争優位をもたらすこと(”difficult to imitate by competitors”)

以下、本稿ではこれらを「展開可能性」「競争優位への貢献度」「模倣困難性」と呼びます。

この考え方に立つと、事業にとって重要であることと、コアコンピタンスであることは同じではありません。

会計や給与計算は、正確に処理されなければ事業を継続できません。受発注や在庫管理も、止まれば大きな影響が生じます。しかし、その処理方法自体が顧客に選ばれる理由でなく、他社と同じ仕組みを使っても競争力が損なわれないなら、そこへ希少な内製人材を集中させる合理性は高くありません。重要だからこそ、実績のある標準サービスを利用し、安定性や法令対応を確保するという選択もあり得ます。

反対に、扱う金額や利用者数が相対的に小さくても、顧客への提案方法、価格の決め方、需要予測、商品設計、サービス提供時の体験などが選ばれる理由に直結しているなら、その領域はコアコンピタンスになり得ます。競争優位への貢献度が高いからです。そこで生まれる知識や改善の速度は、外から購入しにくく、企業の中で時間をかけて蓄積されます。これが模倣困難性の源泉になります。

1-2. 自社固有であることも、コアであることを意味しない

もう一つ区別すべきなのは、自社固有の業務とコアコンピタンスです。

長年の運用によって独自の承認手順や例外処理が積み重なり、それに合わせてシステムが個別化されていることがあります。しかし、その独自性が顧客価値や競争優位につながっていなければ、守るべき強みではなく、見直すべき複雑性かもしれません。「当社の業務は特殊だから」という説明だけでは、その業務へ内製力を投入する理由にはなりません。その違いは誰にどのような価値をもたらしているのか、標準化すると何を失うのか、競合他社が同じ仕組みを持ったときにも優位性は残るのかまで問う必要があります。

IPAの「DX動向2025」では、コア事業・競争領域とノンコア事業・非競争領域を分けて開発手段を調査しており、日本はコア領域でも外部委託が4割弱で最も多い一方、米国は内製による自社開発が5割弱で最も多いとされています(出典②p.42)。この差だけで内製比率の高い国が優れているとは言えませんが、調査そのものがコア領域と非コア領域を分けている点は示唆的です。問うべきなのは全社の内製比率ではなく、自社が競争力の源泉と位置づける領域に、必要な内製力を配置できているかどうかです。

コアコンピタンスは、現在売上が大きい事業と同義でもありません。環境や戦略が変われば、将来の競争力を生む領域も変わります。だからこそ、内製力の配分は一度決めて終わる組織図ではなく、経営戦略とともに見直す投資判断として扱う必要があります。

出典

2. 内製化の価値は、学習の循環にある

内製化という言葉からは、社員がプログラムを書き、システムを自社で構築する姿が連想されます。しかし、社員が実装しているという事実だけでは、競争力につながる内製化とはいえません。外部から与えられた仕様を、そのまま社内のエンジニアが作っているだけなら、実装場所が社外から社内へ移ったにすぎないからです。

内製化の価値は、課題を見つけ、仮説を立て、設計し、実装し、顧客や現場の反応を確かめ、次の改善を決めるという循環を、自社の中で回せることにあります。

2-1. 実践に関わることで、外部の知識も使えるようになる

経営学には、外部にある新しい知識の価値を認識し、それを取り込み、事業に活用する能力を「吸収能力」と呼ぶ考え方があります。自ら研究開発を行う企業ほど、外部で得られる情報を活用する能力も高まりやすいこと、製造など実践への直接的な関与が、事業に関係する新しい情報を認識し活用するための知識を育てることが指摘されています。

こうした指摘が直接扱っているのは研究開発や製造であり、システム開発の内製化そのものではありません。ただし、自ら実践して蓄積した関連知識があるからこそ、外部の知識を評価し活用できるという構造は、デジタル領域にも当てはめて考えられます。外部パートナーから新しい技術や設計を提案されても、社内に実践知がなければ、それが自社の事業にとってどのような価値を持つのか、どの前提に限界があるのかを判断できません。外部の知識は、社内に知識がないほど使いやすくなるのではなく、受け止めるための知識があることで、初めて選び取り、組み合わせ、応用できるようになります。

2-2. 顧客と技術の間を往復する

コア領域では、要件を最初から完全に定義することが難しい場合が少なくありません。顧客が何を評価するか、どの機能が実際に使われるか、どこで業務が滞るかは、試して初めて分かるからです。

内製チームが顧客や現場に近い位置で動けば、利用状況や反応を次の設計へ戻せます。実装中に見つかった技術的な可能性を、新しい商品や業務の選択肢として事業側へ返すこともできます。この往復が短くなるほど、仮説を修正する速度も上がります。

ここで蓄積されるのは、プログラムの書き方ではなく、顧客はどの価値に反応するのか、どのデータが意思決定に使えるのか、どの例外が本質的なのか、どこまで標準化しても価値を損なわないのかという、事業と技術を結びつける知識です。

2-3. 内製すれば、自動的に学習できるわけではない

もっとも、開発者を社員として雇えば、学習の循環が自然に生まれるわけではありません。事業部門が要件を決め、社内の開発者へ渡し、完成後の利用状況を開発者へ返さないなら、社内にも発注者と受注者の分断が再現されます。反対に、実装の一部を外部へ委ねていても、社内が課題設定、仮説、優先順位、成果評価を主導し、外部パートナーと一緒に検証結果を読み解いているなら、学習は社内に残せます。

したがって、内製化を評価するときに見るべきなのは、社員が書いたコードの量ではなく、顧客や現場から得た情報が誰によって解釈され、次の判断へどう反映され、その理由がどこに蓄積されているかです。

3. 内製力を集中させる領域をどう見極めるか

では、限られた内製力をどの領域へ集中させればよいのでしょうか。

1章の3基準のうち、展開可能性はここでは使いません。これは、ある能力がコアコンピタンスと呼べるかどうかを見極めるための基準であり、いまその領域にどれだけ内製力を割くべきかは示していないからです。展開可能性と、いまの事業でその領域がどれだけ競争優位を左右するかは、別の問いです。

ここでは、残る2つの基準——競争優位への貢献度と模倣困難性——を軸として使います。ただし模倣困難性の源泉はいくつかあり、本稿が扱う内製力の配分に関わるのは、学習を通じた改善の蓄積によって生まれる模倣困難性です。特許やビジネスモデル上の構造的な独自性のように、学習の蓄積を伴わずに模倣困難性が成立する場合、この軸では捉えられません。

ここでは、この学習による模倣困難性を「学習を通じた改善の必要性」という軸で扱います。一つは、その領域が競争優位にどれだけ直結しているかです。もう一つは、顧客や環境の変化を学習し、その学習に基づいて仕組みを改善し続ける必要がどれだけあるかです。

図表1: 内製力を配分すべき領域の判断基準
学習を通じた改善の必要性が高い学習を通じた改善の必要性が低い
競争優位との直結度が高い内製力を重点的に投入し、仮説設定から改善まで自社が主導する方針、知識、設計原則を社内に保持し、実装では外部も活用する
競争優位との直結度が低い制度改正などの外部環境の変化への対応は、標準サービスで吸収できる可能性を検討するSaaS、パッケージ、共通基盤、外部委託を活用する

3-1. 内製力を最優先で投入すべき領域

この基準に従えば、内製力を集中させるべき領域は明らかです。学習を通じた改善によって競争優位を保てる領域——図表1の左上——です。デジタルサービスそのものが商品である場合の顧客体験、独自の需要予測や価格設定、提供速度を左右する業務設計などが当てはまります。

この領域では、完成したシステムを保有することよりも、変化に応じて作り替えられるチームと知識を持つことが重要です。外部の専門家を利用するとしても、ロードマップと改善の優先順位は自社が握ります。

3-2. それ以外の領域

競争優位に関係するものの、学習を通じた改善の必要性が低い領域では、実装要員を常時抱える必要はありません。設計思想やデータの意味、重要な判断の理由を社内に残し、必要なときに変更を主導できる状態を保てば十分です。

競争優位に直結しない領域では、標準化されたサービスを利用する方が合理的です。制度改正やセキュリティ対応のように外部環境の変化への対応が必要な領域でも、その学習と対応をサービス提供者に委ねれば、社内の人材をコア領域へ振り向けられます。ここで注意したいのは、変更要求の多さと学習の必要性を混同しないことです。変更が多くても、その大半が現場ごとの例外対応の積み重ねであれば、必要なのは個別開発ではなく業務の標準化です。

4. コア領域へ集中するために、何を手放すか

3章で見た基準に従って集中すべき領域が定まっても、そこへ実際に人材を重点配置できなければ、判断は絵に描いた餅で終わります。採用や育成を待っていては、必要な人数がそろうまで何も変えられません。

ここでは、コア領域へ内製力を重点配置するために、現在の内製力を何に使っているかを見直し、そこから人材を移す方法を考えます。内製化の戦略は、何を自社で行うかだけでなく、何を自社で行わないかまで含めて設計する必要があります。

4-1. 価値を生まない独自性を減らす

共通業務に多数の個別仕様を持つと、制度変更、製品更新、データ連携のたびに社内の人材が対応へ追われます。一件ずつ見れば必要に見える変更でも、積み重なれば、コア領域に使える時間を奪います。

その独自性が顧客価値につながっていないなら、システムを業務へ合わせ続けるのではなく、業務を標準へ合わせる選択が必要です。標準化は、単なるコスト削減策ではなく、希少な内製力を競争領域へ戻すための資源配分でもあります。

4-2. 技術的負債は、人材配分の問題でもある

以下の関連記事では、技術的負債を、過去の判断が現在と将来の変更をどれだけ縛っているかという観点から整理しました。

技術的負債は、変更に必要な費用を増やすだけでなく、技術者の時間を影響調査、障害対応、暫定処理、属人化した運用に拘束します。負債を抱えた非コア領域の維持に優秀な人材を割き続ければ、コア領域の学習と改善は遅れます。だからこそ、技術的負債の返済順位も、システムの古さだけでは決められません。その負債を減らすことで、どれだけの内製力を競争領域へ移せるかという視点が必要です。

領域の重心は、経営環境とともに動きます。かつてコアと判断して人材を固定した配置そのものが、後から領域を動かそうとするときの負債になることもあります。内製力の配分を投資判断として定期的に見直す必要があるのは、この理由からでもあります。

4-3. 内製化の量を目標にしない

内製比率や社員エンジニア数を目標にすると、内製化しやすい領域から着手しがちです。その結果、社内向けの小規模ツールは増えても、商品や顧客体験を左右する中核部分は外部へ依存したまま、ということが起こり得ます。

見るべきなのは、内製した案件の件数ではなく、内製人材の時間がどの領域へ配分されているかです。保守、問い合わせ、例外対応、会議、委託先管理にどれだけ使われ、顧客理解、仮説検証、設計、改善にどれだけ使われているかを可視化すれば、内製力が競争力へ向かっているかを判断できます。

ただし、非コア領域を手放すことは、無関心になることではなく、判断の責任を保持し続けることです。セキュリティ、データ管理、アーキテクチャ、サービス水準、委託先の評価は、外部サービスを利用する場合でも社内に残ります。作業を手放すことと、責任を手放すことは別です。

4-4. 集中は、外部を排除することではない

コア領域へ内製力を集中することは、外部の力を使わないことではありません。すべてを自社で抱えようとすれば、技術の変化に追随するだけで人材が消費され、かえって学習に集中できなくなります。クラウド、SaaS、外部の専門家、開発パートナーは、外部の知識を取り込み、自社の学習を速めるために利用するものです。2章で見た吸収能力の考え方も、外部知識を遮断した自前主義を意味しません。社内に実践知があるからこそ、外部の知識を評価し、活用できます。

結び

内製化の目的は、自社の競争力を左右する領域で学習を速く回し、その知識を次の判断へ使える形で蓄積することにあります。

意思決定の中核機能を社内に持ったうえで、限られた内製力を顧客に選ばれる理由につながる領域へ集中させて初めて、その力は競争力に変わります。

自社の内製人材は、顧客に選ばれる理由を磨くために力を使っているでしょうか。それとも、他社と同じでよい仕組みを維持するために、その力を使い続けているでしょうか。

執筆者プロフィール

粕谷英雄
サマーオーシャンコンサルティング

ソフトウェア開発、情報システム刷新、DX推進などの実務知見をもとに、デジタル化に関する意思決定を支援。デジタルを経営に活かすための視点や推進の考え方を整理して発信しています。

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