令和8年度税制改正大綱のうち、中小企業向け改正は、個別制度をばらばらに見るよりも、全体を貫く考え方から読んだほうが理解しやすい内容です。大企業向けの賃上げ促進税制が事実上廃止される一方、中小企業向けには「防衛的賃上げ」への配慮として現行制度が維持されました。同時に、少額減価償却資産の特例引き上げ、事業承継税制の期限延長、中小企業技術基盤強化税制への繰越控除導入など、中小企業の経営実態を踏まえた複数の制度変更が盛り込まれています。

本記事では、「なぜ中小企業だけ現行維持なのか」「事業承継税制の延長が意味すること」「少額減価償却の30万→40万円という数字の根拠」など、改正の「結果」ではなく「理由」を読み解くことを目的とします。各制度について、現行制度がどうなっているかを先に確認し、そのうえで今回の改正を位置づける形で整理します。制度改正は、常に既存制度への評価を含んでいます。改正点だけを見ても、本当に大事な論点は見えません。むしろ、なぜ現行制度では足りなくなったのか、何を維持し、何を変えようとしているのかを読むことが重要です。

今回の中小企業向け改正を一言で表すなら、「守るべきところは守るが、無条件には守らない税制」です。防衛的賃上げには配慮する一方、投資や賃上げに動かない企業への優遇は絞り込む。少額資産の基準は物価上昇に合わせて直すが、その背後では租税特別措置全体の適正化も進める。こうした二面性をどう読むかが、今回の大綱を理解する鍵です。

この記事を特に注目すべき方
  • 中小企業の経営者・経理担当者で、令和8年度の税制改正が自社に与える影響を把握したい方
  • 事業承継を検討中のオーナー経営者または後継者
  • 税制改正を「制度一覧」としてではなく、政策思想から理解したい方
この記事のポイント
  • 賃上げ促進税制:大企業・中堅企業向けは縮小・廃止され、中小企業向けは現行維持、ただし教育訓練費の上乗せ措置は廃止
  • 少額減価償却資産の特例:取得価額の基準が30万円未満から40万円未満に引き上げられ、3年延長される
  • 中小企業技術基盤強化税制:赤字年度でも研究開発を継続できるよう、3年間の繰越税額控除を新設
  • 事業承継税制:法人版・個人版ともに提出期限が延長されるが、延長後のあり方を令和9年度税制改正で検討・結論づける方針が示されている
  • 交際費課税:飲食費1万円以下の損金算入除外は継続だが、令和9年度税制改正で交際費課税そのものの見直しを検討するとされている

1. 今回の中小企業向け改正は、どのページを読めば見えてくるのか

大綱参照箇所
  • 政策の全体方針:本文 p.2「賃上げ促進税制」「研究開発税制」「租税特別措置等」
  • 設備投資・研究開発の強化:p.6〜7「大胆な設備投資の促進に向けた税制措置」「研究開発税制の拡充」
  • 中小企業向け個別措置:p.14〜15「3.(1)活力ある地方・中小企業の後押し」

中小企業向け改正を読む際、p.14〜15だけを見ても項目の一覧は把握できます。しかし、なぜその制度が並んでいるのかは、前半の基本的考え方を読まないと見えてきません。

大綱p.2では、物価高を超える賃上げの実現に向けて、賃上げ促進税制を「防衛的賃上げに苦しむ中小企業に特化した形」に見直すとされています。同時に、大胆な設備投資促進税制の創設と、租税特別措置の適用除外の強化も掲げられています。つまり今回の中小企業向け改正は、単独の中小企業対策ではなく、「強い経済」を実現するための法人税・投資税制全体の再編の中に置かれているのです。

この構図を踏まえると、p.14〜15に並ぶ少額減価償却資産、研究開発税制、事業承継税制、地方拠点強化税制は、単なる個別メニューではありません。物価高・人手不足・設備投資停滞・承継の遅れという現実に対して、「どこを維持し、どこで行動変容を促したいのか」を具体化したものです。以下の各章では、この視点をもって個別制度を読み解いていきます。

2. 賃上げ促進税制の改正ポイント

2-1. 現行制度の確認

まず現行制度を確認します。中小企業向け賃上げ促進税制は、青色申告書を提出する中小企業者等が、前年度より給与等支給額を増加させた場合に、その増加額の一定割合を法人税または所得税から控除できる制度です。制度の源流は平成25年度(2013年)の「所得拡大促進税制」に遡り、以降数次の改正を経て整備されてきました。令和6年度改正後の現行制度では、継続雇用者給与等支給額の増加割合に応じて税額控除率が段階的に設定されており、最大45%の控除率が適用されます(対象:令和9年3月31日までに開始する事業年度)。

2-2. 今回の改正方針:規模で分けた「三段階の処遇」

令和8年度改正において、この制度は企業規模ごとに大きく異なる取り扱いを受けることになりました。大綱の記述を確認すると、「足元では賃金上昇率がバブル期以来の水準となる高い伸びを示しており、本税制の要件となる水準を大きく上回る状況にある」(大綱p.11)とされており、大企業については賃上げが一定程度達成されたという認識が示されています。そのため「大企業向け措置は適用期限を待たずに廃止する」との方針が打ち出されました(令和8年3月31日廃止)。中堅企業(常時使用従業員2,000人以下の法人)向けの措置も、「より高い賃上げを促す方向で要件を強化しつつ」令和9年3月31日の適用期限をもって廃止されます。

一方、中小企業向け措置については「人材獲得競争の中で防衛的賃上げに取り組む企業にも配慮し、令和8年度は現行制度を維持する」との判断がなされました。ここでの中小企業は、利益が十分に出ているから賃上げする主体ではなく、人が採れない・辞められるという圧力の中で賃上げせざるを得ない主体として捉えられています。「防衛的賃上げ」という大綱の表現は、この実態認識を端的に示しています。

この読み方は重要です。中小企業向け措置が維持されたのは「中小企業だから優しい」のではありません。足元の労働市場では、中小企業の賃上げは成長投資というより生存条件に近いという政策的認識があるからです。

なお、年収の壁と賃上げの関係については別記事で詳しく解説しています。

2-3. 教育訓練費上乗せ措置の廃止と会計検査院の指摘

現行の賃上げ促進税制には、教育訓練費を一定割合以上増加させた場合に税額控除率を上乗せする措置があります。中小企業向けでは税額控除率に10%を加算する仕組みですが、この上乗せ措置は今回の改正で廃止されます(大綱 p.94「③ 中小企業向けの措置における教育訓練費に係る上乗せ措置は、廃止する。」)。

廃止の理由として大綱が明示しているのが会計検査院の指摘です。「教育訓練費の増加額を税額控除額が上回る場合があるという会計検査院の指摘を踏まえ、廃止する」(大綱p.11)とされています。つまり、教育訓練費に100円使うことで、それを超える税額控除が発生するケースが制度設計上生じており、財政的な観点から問題があるとされたのです。「税制の優遇が本来の政策目的(人材育成)に比例しているか」という問いに対して、会計検査院が否を突きつけた形です。会計検査院の指摘を受けて制度が修正されるこのプロセスは、税制ガバナンスの一端を示しています。

なお、大綱は中小企業向け賃上げ促進税制について「期限到来時に適用状況等を踏まえ、必要な見直しを検討する」(大綱p.11)と附記しています。現行維持は「永続」ではなく「令和8年度限り」の措置であり、令和9年度以降は要件が強化される可能性がある点に留意が必要です。

3. 少額減価償却資産の特例の改正ポイント

3-1. 現行制度の確認

現行制度では、中小企業者等が取得価額30万円未満の減価償却資産を取得し、一定の要件を満たす場合、その取得価額の全額をその年度に損金算入できます(上限:年300万円)。通常の定率法・定額法による年次償却を行わず、取得時に全額費用化できるため、事務負担の軽減と資金繰りの改善に直結する、中小企業にとって馴染み深い特例です。この制度は平成15年度(2003年)に創設され、取得価額の基準は当初から「30万円未満」とされており、以来20年以上にわたってほぼ据え置かれてきました。

3-2. 40万円という基準:物価上昇で「痩せた」制度の実効性を回復する

大綱は今回の改正について、「制度が創設された平成15年度以降の主要な対象資産の価格動向等を踏まえ、30万円未満となっている取得価額の基準を40万円未満に引き上げる」と説明しています(大綱p.14)。なお大綱はp.2において、「長年にわたって据え置かれてきた税制上の基準額について、網羅的な点検を行い」物価高に対応したと述べており、少額減価償却の基準額引き上げはその流れに位置づけられます。

40万円という数字の具体的な積算根拠は、公開情報の範囲では明らかにされていません。ただし大綱は、「制度が創設された平成15年度以降の主要な対象資産の価格動向等を踏まえ」見直すと説明しており、今回の引上げは、長年据え置かれてきた30万円基準を現実の価格水準に合わせて調整する趣旨と理解できます。
したがって、ここで重要なのは40万円という数字そのものの算式よりも、物価や資産価格の変化で実効性が薄れていた制度を、実務上使える水準へ戻したという点でしょう。

なお、物価上昇が制度や家計に与える影響については、別記事でも整理しています。

この改正の意味は、単なる「10万円上がった」ではありません。制度ができた当時と比べて、PCや業務用端末、専門機器の価格帯は確実に上がっています。名目額を据え置いたままでは、制度は存在していても実質的に使いにくくなる。今回の引上げは、中小企業支援であると同時に、インフレで痩せた制度の実効性を回復する措置と読むべきです。税制を物価と無関係の固定額として扱わないという、今回の大綱全体の姿勢が表れています。

なお、今回の改正では対象法人から「常時使用する従業員の数が400人を超える法人」が除外されます(大綱 p.100 (5)②)。現行制度では500人超が対象外でしたが、これが400人超へと縮小されました。制度の恩恵をより規模の小さい事業者に絞り込む方向性が読み取れます。適用期限は令和10年度まで3年延長されます。

項目改正前改正後
取得価額の基準30万円未満40万円未満
対象外となる従業員数500人超400人超
適用期限令和7年度末令和10年度末(3年延長)

3-3. 中小企業経営強化税制との関係

中小企業経営強化税制においては、工具・器具備品の取得価額要件が30万円以上から40万円以上に引き上げられます(大綱 p.109「〔廃止・縮減等〕(4)」)。少額特例の上限と経営強化税制の下限が同じ40万円に揃えられることで、両制度間の境界線が整理されます。従来の「30万円未満は少額特例、30万円以上は経営強化税制」というすみ分けが変わる点は、実務上の確認が必要です。

4. 中小企業技術基盤強化税制の改正ポイント

4-1. 現行制度の確認と今回の改正内容

中小企業技術基盤強化税制とは、中小企業が試験研究費を支出した場合に、その一定割合を法人税額から控除できる制度です。一般型の研究開発税制(大企業も含む)とは別に中小企業向けに設けられており、控除率は12〜17%、控除上限は原則として法人税額の25%とされています。つまり現行制度は、研究開発を行う中小企業に対して、黒字が出ている年度を中心に税負担を軽減する仕組みです。

しかしここに弱点があります。研究開発は必ずしも年度単位で利益に結びつきません。利益が出ている年しか使いにくい制度では、本当に継続的な研究開発を進めたい企業ほど恩恵を受けにくいという逆説が生じます。

今回の改正で新たに導入されるのが「3年間の繰越税額控除」です(大綱 p.91③「ハ 控除限度超過額については、3年間の繰越しができることとする。」)。大綱はこの問題を「中小企業技術基盤強化税制について、一時的な赤字等であっても継続的な研究開発を促す観点から」と整理しています(大綱p.14)。受注型の製造業やソフトウェア開発企業など、プロジェクトの進捗に応じて利益が変動しやすい事業では、繰越控除の導入によって税額控除を取りこぼすリスクが低減されます。

4-2. 適用要件と運用上の留意点

繰越税額控除が適用できるのは、繰越を使う事業年度において「試験研究費の額が比較試験研究費の額を超える場合」に限られます(大綱 p.91(注1))。試験研究費が対前期比で増加していることが条件であり、単に繰越額を持ち込むだけでなく、研究開発への継続的な取り組みを求める設計になっています。また、一般型の研究開発税制の適用を受ける事業年度は、この繰越制度を使えません。両制度の重複適用を防ぐ措置です。

あわせて、増減試験研究費割合が12%を超える場合の税額控除率上乗せ特例、および試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合の上乗せ特例も、ともに3年延長されます(大綱 p.91 「③ イ・ロ」)。

5. 事業承継税制の改正ポイント

5-1. 現行制度の確認と今回の延長内容

法人版事業承継税制の特例措置は、特例承継計画を令和8年3月31日までに提出し、一定期間内に贈与・相続によって株式を取得した後継者に対して、相続税・贈与税の納税を猶予(一定条件下で免除)する制度です。個人版においても同様の仕組みが設けられており、個人事業承継計画の提出期限は令和8年3月31日とされています。

今回の大綱は、法人版の提出期限を令和9年9月末まで1年6月延長し、個人版の提出期限を令和10年9月末まで2年6月延長するとしています(大綱 p.64〜65(2)(3))。

なお、贈与・相続の基本については下記関連記事をご参照ください。

5-2. なぜ「再延長」なのか:事業承継の未完了問題

法人版事業承継税制の特例措置は、令和元年度の税制改正(2019年)で創設された時限措置です。中小企業庁の公表資料によれば、後継者難や決断の遅れから計画提出が進んでいない地域・業種が多く、期限の延長が繰り返されています。

制度が設けられた背景には、非上場株式等の相続・贈与時の評価額に対する税負担が事業継続の障壁になるという問題意識があります。2025年版中小企業白書でも、事業承継は独立した節を設けて扱われており、中小企業における後継者不在率はなお高水準にある一方で、近年は全体として低下傾向にあることが示されています。後継者不在による廃業は、単なる経営不振とは異なる構造的な課題として、引き続き政策上の重要テーマに位置づけられています。

今回の延長についても大綱は「中小企業経営者及び個人事業者の方々には、適用期限の到来を見据え、早期に事業承継に取り組むことが期待される」と強調しています(本文 p.15)。単なる先送り容認というより、この猶予期間のうちに承継準備を具体化してほしいというメッセージを強く含んでいると読むべきでしょう。大綱も、適用期限到来後のあり方については多角的な検討を行い、令和9年度税制改正において結論を得るとしています。

5-3. 令和9年度税制改正での「結論」が意味するもの

注目すべきは、大綱が「適用期限到来後のあり方については、世代交代の停滞や地域経済の成長への影響に係る懸念に加えて、本措置の適用状況や課税の公平性等の観点も踏まえて多角的な検討を行い、令和9年度税制改正において結論を得る」と明記していることです(大綱p.15)。

「課税の公平性等の観点」という表現は重要なシグナルです。事業承継税制は事業用資産に対して強力な納税猶予の恩恵を与える一方、一般の相続とのバランスを問う声も根強くあります。制度の恒久化に踏み切るのか、廃止・縮減に向かうのか、あるいは要件の厳格化に進むのかは、令和9年度税制改正の焦点のひとつとなるでしょう。

現時点で事業承継を検討しているオーナー経営者は、この「期限延長」を余裕として捉えるのではなく、法人版であれば令和9年9月末という具体的な期限に向けた準備期間として認識することが求められます。

6. その他の中小企業関連改正 – 交際費課税と地方拠点強化税制

6-1. 交際費課税:令和9年度での見直し検討へ

交際費課税とは、法人が支出した交際費・接待費の一定部分を法人税法上の損金に算入できないとする規定です。「冗費や濫費の抑制」という考え方から設けられた制度であり、長らく日本の法人税の特徴的な規定のひとつでした。令和6年度税制改正において、1人当たりの飲食費に係る損金不算入の除外基準が5,000円以下から1万円以下に引き上げられました。令和8年度においては、この1万円基準はそのまま継続されます。

一方で、大綱は「適用期限の到来にあわせて令和9年度税制改正において見直しを検討する」と表明しました(大綱p.15)。交際費課税制度そのものについて、令和9年度税制改正で見直しの議論が本格化する可能性が示されています。大企業を中心に設備投資・賃上げを強く推進する現在の政策方針の中で、「企業間交際費の損金算入を認めることが経済活性化につながるか」という問いへの回答が求められている状況です。

経緯内容
令和6年度改正飲食費の損金不算入除外基準を5,000円→1万円に引き上げ
令和8年度1万円基準を継続(現行維持)
令和9年度税制改正交際費課税のあり方そのものを見直し検討

6-2. 地方拠点強化税制:中古資産も対象化し2年延長

地方活力向上地域等において特定業務施設を整備する企業に対し、建物等の特別償却・税額控除を行う「地方拠点強化税制」についても、見直しが行われます(大綱pp.98-100「三 法人課税 3(1)」)。最大のポイントは、対象資産に中古の建物等・構築物を加える点です(p.99 ②)。これまでは新築・新品の取得が対象でしたが、新築前提では地方の実態に合わない場面があるとして、中古資産のリノベーション・活用も対象となりました。制度の側を現場の実態に寄せる改正といえます。中古資産に対する特別償却率は10%(移転型事業の場合は15%)、税額控除率は2%(移転型事業の場合は4%)とされます。適用期限は2年延長(令和10年3月末まで)です。

中小企業者については雇用者増加数の要件が「20人以上」とされるなど、大企業(60人以上)より低い水準が設定されており、小規模な地方移転・拠点整備でも活用しやすい設計になっています。

7. 「配慮」と「選別」を同時に進める税制改正

7-1. 中小企業者の定義と「適用除外事業者」

今回の改正で「中小企業者等」という表現が繰り返し登場しますが、基本的には租税特別措置法上の「中小企業者」として、資本金1億円以下の法人(ただし大企業の子会社等は除く)が中心です。

注目すべきは「適用除外事業者に該当するものを除く」という括弧書きが随所に登場することです。適用除外事業者とは、大法人(資本金5億円以上の法人等)との間に完全支配関係がある法人などを指します。法形式上は中小企業者であっても、実質的に大企業グループの一員である法人を優遇措置の対象から除外する機能を持っており、制度の恩恵を本来の政策目的に合致した事業者に限定しようとする設計思想がこうした除外規定に表れています。

7-2. 租税特別措置の選別強化という大きな流れ

今回の大綱は、租税特別措置について、「投資や賃上げに消極的な企業の行動変容を促す観点から、特定の租税特別措置の適用を停止する措置について、設備投資と賃上げに係る要件を同時に達成することを求めるなど、要件の強化を行うとともに、不適用の対象となる措置を拡充する」としています(大綱p.12「⑤租税特別措置(特定の税額控除規定)の不適用措置」)。

この流れの中で見ると、今回の中小企業向け改正は単なる保護ではありません。防衛的賃上げには配慮する。物価で目減りした少額資産基準は直す。承継には猶予を与える。しかしその一方で、税制優遇を誰にどう集中させるかは、これまで以上に厳しく見ていく。大綱は「メリハリのある法人税体系を構築していく」という方向性を明示しており(大綱p.14)、「設備投資・賃上げに積極的な企業に恩恵を集中・深化させる」という考え方は、少なくとも今後の中小企業税制を考えるうえでも重要な視点になっていくと読めます。

中小企業経営者にとって大事なのは、「どの制度が使えるか」だけではありません。これからの税制が、どのような企業行動を評価し、どのような企業行動には以前ほど手厚く応じなくなるのかを読むことです。今回の大綱の中小企業向け改正は、その意味で単なる制度改正ではなく、今後の中小企業税制の方向を示すメッセージとして読む価値があります。

まとめ

令和8年度税制改正における中小企業向け措置を整理すると、以下のとおりです。

維持・継続されるもの

  • 賃上げ促進税制(中小企業向け):令和8年度は現行制度が維持されるが、教育訓練費の上乗せ措置は廃止される
  • 交際費の飲食費基準(1人1万円以下):令和8年度は現行制度が維持される

拡充・改善されるもの

  • 少額減価償却資産の特例:30万円未満から40万円未満に引き上げ、3年延長される(ただし従業員400人超は除外)
  • 中小企業技術基盤強化税制:3年間の繰越税額控除を新設、各上乗せ特例も3年延長される
  • 地方拠点強化税制:中古資産を対象追加し2年延長される

延長されるもの(ただし最終局面)

  • 法人版事業承継税制:特例承継計画の提出期限が令和9年9月末まで延長される
  • 個人版事業承継税制:個人事業承継計画の提出期限が令和10年9月末まで延長される

今回の改正全体を読むうえで重要なのは、各制度の改正点だけでなく、現行制度がなぜ見直されたのかを押さえることです。そこまで見て初めて、「守るべき中小企業は守るが、無条件に守る時代ではない」という今回の大綱の思想が見えてきます。

令和9年度税制改正は、中小企業税制にとって大きな節目になる可能性があります。大綱では、事業承継税制の適用期限到来後のあり方交際費課税の今後のあり方について、令和9年度税制改正で結論を得るとしています。一方、中小企業向け賃上げ促進税制については、令和8年度は現行制度を維持した上で、期限到来時に適用状況等を踏まえて必要な見直しを検討するとされています。論点ごとに扱いの強さには差がありますが、次の改正が重要な分岐点になることは確かでしょう。

執筆者プロフィール

1級ファイナンシャルプランニング技能士
CFP®️認定者
1級DCプランナー