令和8年度税制改正大綱において、住宅ローン控除が5年間延長されるとともに、既存住宅の優遇措置が大幅に強化されることとなりました。本改正は、単なる制度の延長ではありません。住宅市場における資源配分を、税制という恒常的なインセンティブを通じて再設計しようとする政策転換です。

税制改正大綱は「本格的な人口減少やカーボンニュートラルといった変化に対応した豊かな住生活を実現するためには、既存住宅の利活用の促進とともに、省エネ性能の向上が重要となる」(令和8年度税制改正大綱p8)と明記しています。この一文は、わが国の住宅税制が「新築偏重」から「既存住宅ストックの利活用」へと軸足を移す決断を端的に示しています。

従来、新築住宅のみに適用されていた子育て世帯への優遇措置が既存住宅にも拡充され、床面積要件も緩和される方向です。同時に、省エネ基準を満たすだけの新築住宅は令和10年以降、段階的に優遇対象から外されます。本改正は、税制を通じて住宅ストックの質的転換を図るという明確な政策意図を持つものです。

本記事は令和8年度税制改正大綱をもとに解説しており、今後の国会審議等により内容が変更される可能性があります。

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この記事を特に注目すべき方
  • 既存住宅(中古住宅)の購入を検討している方
  • 子育て世帯で住宅取得を計画している方
  • 省エネ性能の高い住宅への住み替えを考えている方
  • 住宅税制の政策的背景を理解したい方
ポイント
  • 改正の核心は「既存住宅の利活用促進」と「省エネ性能向上」の同時追求にある
  • そのために以下の改正が行われる
    • 適用期限を5年延長(令和12年12月31日まで)
    • 既存住宅の借入限度額・控除期間の大幅な拡充
    • 子育て世帯等への上乗せ措置を既存住宅にも適用
    • 床面積40㎡以上の特例を既存住宅にも拡大
    • 新築住宅の省エネ基準適合住宅は令和10年以降段階的に縮小
    • 災害危険区域等での新築を令和10年1月以降適用対象から除外

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目次 [ close ]
  1. 1. 改正の三つの政策軸
    1. 1-1. 第一の軸: 既存住宅ストックの利活用促進
    2. 1-2. 第二の軸: カーボンニュートラルへの対応
    3. 1-3. 第三の軸: 子育て世帯への支援強化
  2. 2. 現行の住宅ローン控除制度の概要
    1. 2-1. 制度の基本構造
    2. 2-2. 借入限度額と住宅性能による区分
    3. 2-3. 既存住宅に関する取扱い
    4. 2-4. 子育て世帯・若年夫婦世帯に対する借入限度額の上乗せ
    5. 2-5. 制度の位置づけ
  3. 3. 既存住宅優遇の大幅強化
    1. 3-1. 認定住宅・ZEH水準省エネ住宅の借入限度額引上げ
    2. 3-2. 控除期間の13年間への延長
    3. 3-3. 改正後の借入限度額・控除期間の全体像
  4. 4. 子育て世帯等への支援拡充
    1. 4-1. 子育て世帯等の定義と上乗せ措置の内容
    2. 4-2. 子育て世帯等の借入限度額
    3. 4-3. 床面積40㎡特例の既存住宅への拡大
    4. 4-4. 子育て関連税制全体の中の位置付け
  5. 5. 省エネ基準適合住宅の段階的縮小
    1. 5-1. 令和10年以降の新築における適用除外
    2. 5-2. 段階的な移行措置の設計
    3. 5-3. 税制を通じた「誘導」の論理
  6. 6. 災害リスクへの対応
    1. 6-1. 災害危険区域等における新築の適用除外
    2. 6-2. 適用除外の例外措置
    3. 6-3. 政策の意図:予防的な居住誘導
  7. まとめ
    1. 既存住宅優遇の強化という明確なメッセージ
    2. カーボンニュートラルへの誘導機能
    3. 子育て支援と災害予防の複合的な政策目的
    4. 今後の展望:税制と他の政策手段の連携

1. 改正の三つの政策軸

1-1. 第一の軸: 既存住宅ストックの利活用促進

令和8年度税制改正における住宅ローン控除の見直しは、三つの明確な政策軸によって設計されています。その第一が「既存住宅ストックの利活用促進」です。

税制改正大綱第一「令和8年度税制改正の基本的考え方」において、既存住宅の優遇強化の背景として「本格的な人口減少」という構造的課題が明示されています(令和8年度税制改正大綱p8)。この表現は、単なる人口微減ではなく、わが国が長期的かつ不可逆的な人口減少局面に入ったという認識を示しています。

人口減少社会においては、新築住宅の建設を継続的に優遇することの合理性が問われます。住宅ストック数が既に総世帯数を上回る状況下で、さらなる新築偏重は、資源配分の観点から非効率であるだけでなく、環境負荷の観点からも問題があります。既存住宅を長期間利用することは、新たな資源投入を抑制し、建設廃棄物の発生を減らすという意味で、カーボンニュートラル目標の達成にも寄与します。

2023年10月1日現在における我が国の総住宅数は6504万7千戸で、2018年と比べ、4.2%(263万9千戸)の増加、総世帯数は5621万5千世帯で、2018年と比べ、4.1%(221万4千世帯)の増加となっている。

総務省報道資料「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」より引用

さらに注目すべきは、この誘導を「補助金」ではなく「税制」で行っている点です。補助金は予算措置として年度ごとの制約を受けますが、税制は市場価格に組み込まれる恒常的なインセンティブとして機能します。行政は、住宅取得という私的行為に対して、直接規制ではなく、税負担の軽減という形で長期的な行動変容を促そうとしているのです。

これは、強制ではなく選択の余地を残した誘導であり、市場メカニズムを前提とした政策設計といえます。

税制改正大綱が「既存住宅の利活用の促進」を第一に掲げた背景には、このような構造的課題への対応があります。新築住宅の借入限度額が据え置かれる一方で、既存住宅の優遇が大幅に強化されたことは、住宅政策における優先順位の転換を意味します。

1-2. 第二の軸: カーボンニュートラルへの対応

第二の政策軸は「省エネ性能の向上」です。税制改正大綱は「カーボンニュートラルといった変化に対応」と明記しており(令和8年度税制改正大綱p8)、2050年カーボンニュートラル目標の達成が、住宅税制の設計における重要な考慮要素となっていることが分かります。

特に注目すべきは、既存住宅において新たに「ZEH水準省エネ住宅」という区分が創設された点です。従来、既存住宅は「認定住宅等」と「その他」の二区分のみでしたが、改正後は新築住宅と同様に省エネ性能に応じた細かな区分が設けられます。これは、既存住宅ストックの省エネ性能向上を税制を通じて誘導しようとする明確な意図を示しています。

同時に、新築住宅においては令和10年以降、省エネ基準適合住宅が原則として適用対象外とされます。この措置は、建築物省エネ法の改正により令和7年4月以降、全ての新築住宅に省エネ基準適合が義務づけられることを前提としています。義務化された基準を満たすだけの住宅を税制上優遇することは政策的合理性を欠くという判断です。

1-3. 第三の軸: 子育て世帯への支援強化

第三の政策軸は「子育て世帯への支援強化」です。従来、子育て世帯等への上乗せ措置(借入限度額+1,000万円)は新築住宅のみに適用されていましたが、今回の改正により省エネ基準適合以上の既存住宅についても適用されることとなりました(令和8年度税制改正大綱p35)。

この変更の背景には、子育て世帯の住宅選択の実態があります。新築住宅の価格上昇が続く中、予算の制約から既存住宅を選択する子育て世帯が増加しています。税制上の支援が新築に偏っていることは、実質的に子育て世帯の住宅取得を阻害しているとの指摘がありました。

また、税制改正大綱の「基本的考え方」において、「高校生年代の扶養控除の見直しについては、先行して住宅ローン控除や生命保険料控除が拡充されていることも念頭に、今後も真摯な議論を行っていかなければならない」(令和8年度税制改正大綱p3)と記載されています。この表現は、子育て支援策の全体像の中で住宅ローン控除の拡充が位置づけられていることを示唆しています。

2. 現行の住宅ローン控除制度の概要

本章では、令和8年度改正の内容を理解する前提として、現行制度(令和7年度まで適用される仕組み)を簡潔に整理します。

2-1. 制度の基本構造

住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、一定の要件を満たす住宅を取得し、金融機関からの借入金により購入・新築・増改築を行った場合に、年末時点の借入残高に一定割合を乗じた額を所得税等から控除する制度です。

現在の制度では、控除率は原則として年末残高の0.7%、控除期間は原則13年間(一定の場合は10年)とされています。

制度の目的は、住宅取得の初期負担を軽減することにより、持家取得を支援するとともに、景気対策や住宅投資の促進を図る点にあります。かつては景気刺激策としての性格が強い時期もありましたが、近年は省エネ性能や子育て支援との連動が重視される傾向にあります。

2-2. 借入限度額と住宅性能による区分

現行制度では、住宅の性能区分に応じて借入限度額が異なります。

新築住宅等の区分、借入限度額・控除期間は以下のとおりです。

図表1: 認定住宅等である新築等の場合の借入限度額・控除期間等 (現行制度)
住宅区分借入限度額控除率控除期間
認定長期優良住宅・認定低炭素住宅4,500万円0.7%原則13年
ZEH水準省エネ住宅3,500万円0.7%原則13年
省エネ基準適合住宅3,000万円0.7%原則13年

国税庁「No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」を元に簡略化して引用

このように、現行制度はすでに「性能に応じた優遇構造」を採用しています。単に住宅取得を支援するのではなく、より高性能な住宅への誘導を税制上組み込んでいる点が特徴です。

2-3. 既存住宅に関する取扱い

既存住宅についても控除の適用は可能ですが、耐震基準への適合など一定の要件が課されます。

ただし、借入限度額は新築住宅より低く設定される場合があり、制度設計上は依然として「新築中心」の構造が色濃く残っています。

この点が、今回の令和8年度改正における重要な見直し対象の一つとなります。

2-4. 子育て世帯・若年夫婦世帯に対する借入限度額の上乗せ

現行制度では、子育て世帯・若年夫婦世帯に対する借入限度額の上乗せ(+500万円ないし+1,000万円)は、新築住宅および買取再販住宅において設けられています。一方、既存住宅については同様の上乗せ措置は原則として存在しておらず、子育て支援と既存住宅流通促進は制度上必ずしも統合されていませんでした。

2-5. 制度の位置づけ

現行制度は、住宅取得支援という枠組みを維持しつつも、

  • 省エネ性能の向上
  • 子育て世帯への配慮
  • 市場の質的転換

といった政策目的を徐々に織り込んできました。

しかし、その優遇構造は必ずしも既存住宅市場の活性化や立地誘導までを十分に反映したものとは言い切れません。

この点が、今回の改正でどのように再設計されるのかが、本稿の中心的論点となります。

3. 既存住宅優遇の大幅強化

現行制度と制度改正に対する政策思想を前提に、具体的な変更点を見ていきます。

3-1. 認定住宅・ZEH水準省エネ住宅の借入限度額引上げ

既存住宅における最大の変更点は、認定住宅とZEH水準省エネ住宅の借入限度額の大幅な引上げです。

認定住宅(認定長期優良住宅・認定低炭素住宅):3,000万円→3,500万円

認定長期優良住宅は、耐震性、省エネ性、劣化対策、維持管理の容易性など、長期にわたり良好な状態で使用できる構造及び設備を有する住宅として認定を受けたものです。認定低炭素住宅は、都市の低炭素化の促進に関する法律に基づき、二酸化炭素排出量の抑制に資する住宅として認定を受けたものです。

人口減少と住宅ストックの過剰という構造問題は、既存住宅市場の価格形成にも影響を与えています。日本では築年数の経過に伴い価格が急速に下落する傾向が強く、住宅の性能差が十分に評価されにくい市場構造が指摘されてきました。

既存住宅の活用を促すという政策思想は、単に流通量を増やすことではなく、「性能が価格に反映される市場」を整備することでもあります。

これらの住宅は、新築時に一定のコストをかけて高い性能を確保しているにもかかわらず、日本の既存住宅市場では築年数の経過とともに急速に価格が下落する構造の中で、性能差が価格に十分反映されにくいという問題を抱えていました。

借入限度額の引上げは、単なる減税拡充ではなく、「性能を市場で評価する仕組み」を税制で補完する試みと理解できます。

ZEH水準省エネ住宅の新設:3,500万円

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)水準省エネ住宅とは、断熱性能の大幅な向上と高効率設備により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、太陽光発電等によりエネルギー収支をゼロとすることを目指した住宅です。

既存住宅においてZEH水準省エネ住宅が新たに優遇区分として設定されたことは、カーボンニュートラル目標との整合性を図る上で重要な意味を持ちます。政府は2030年度において新築住宅の平均でZEHを実現することを目標としていますが、既存住宅ストックの省エネ性能向上なくしてカーボンニュートラルは達成できません。

3-2. 控除期間の13年間への延長

既存住宅のうち省エネ基準適合以上の住宅について、控除期間が10年から13年に延長されたことも重要な変更です(令和8年度税制改正大綱p35)。

従来、控除期間13年は新築住宅及び買取再販住宅に限定されており、一般の既存住宅は10年間とされていました。この差異は、新築住宅の取得促進という政策目的に基づくものでしたが、今回の改正により、省エネ性能の高い既存住宅については新築住宅と同等の控除期間が認められることとなりました。

この変更は、「新築であるか既存であるか」ではなく、「省エネ性能が高いか否か」を優遇の基準とする政策への転換を示しています。控除期間の延長は、減税額の総額を増やすという直接的な効果に加え、取得時の初期コストの高さを長期的な税制メリットで相殺するという意味を持ちます。

3-3. 改正後の借入限度額・控除期間の全体像

改正後の住宅ローン控除の枠組みを整理すると、次のとおりとなります。

図表2: 認定住宅等である新築等の場合の借入限度額・控除期間等 (改正後)
住宅区分借入限度額控除率控除期間
現行改正後
認定長期優良住宅・認定低炭素住宅4,500万円4,500万円0.7%原則13年
ZEH水準省エネ住宅3,500万円3,500万円0.7%原則13年
省エネ基準適合住宅3,000万円2,000万円※0.7%原則13年

※1: 省エネ基準適合住宅の買取再販認定住宅等については、令和10年~令和12年居住分も借入限度額2,000万円、控除期間13年
※2: 省エネ基準適合住宅は、令和10年以降、新築住宅については原則として適用対象外

令和8年度税制改正大綱pp34-35より引用

図表3: 認定住宅等である既存住宅取得の場合の借入限度額・控除期間等 (改正後)
住宅区分現行改正後控除率
借入限度額控除期間借入限度額控除期間
認定長期優良住宅・認定低炭素住宅3,000万円原則10年3,500万円原則13年0.7%
ZEH水準省エネ住宅3,000万円原則10年3,500万円原則13年0.7%
省エネ基準適合住宅3,000万円原則10年2,000万円原則13年0.7%

令和8年度税制改正大綱p35より引用

図表4: その他の住宅取得の場合の借入限度額・控除期間等 (改正後)
住宅区分借入限度額控除率控除期間
現行改正後
買取再販住宅・既存住宅・増改築等2,000万円2,000万円0.7%原則13年

令和8年度税制改正大綱p36より引用

この表から明らかなように、既存住宅における認定住宅・ZEH水準省エネ住宅は、新築住宅と比較しても遜色ない水準の支援が受けられる構造となっています。特にZEH水準省エネ住宅については、既存住宅でも新築住宅と同一の借入限度額(3,500万円)・控除期間(13年間)が設定されています。

なお、図表4で示した認定住宅等でない住宅取得に関する借入限度額等は現行制度から変更はなく、定義の明確化にとどまっています。

4. 子育て世帯等への支援拡充

4-1. 子育て世帯等の定義と上乗せ措置の内容

今回の改正により、従来は新築住宅、買取再販住宅に限定されていた子育て世帯等への上乗せ措置(借入限度額+500万円~+1,000万円)が、省エネ基準適合以上の既存住宅にも拡充されました。

税制改正大綱において、「特例対象個人」として次のいずれかに該当する者が定義されています(令和8年度税制改正大綱p36)。

  1. 年齢40歳未満であって配偶者を有する者
  2. 年齢40歳以上であって年齢40歳未満の配偶者を有する者
  3. 年齢19歳未満の扶養親族を有する者

この定義は、若年夫婦世帯と子育て世帯を広く対象とするものです。ここで重要なのは、本措置が単なる少子化対策にとどまらない点です。

住宅取得は家計にとって最大規模の投資であり、住環境の安定は教育・就労・地域定着に波及します。行政は、住宅税制を通じて子育て世帯の生活基盤を安定させ、長期的な経済参加を支える構造を構築しようとしていると読むことができます。

4-2. 子育て世帯等の借入限度額

子育て世帯等が省エネ基準適合以上の既存住宅を取得した場合の借入限度額は、次のとおりとなります。

図表5: 特定対象個人の認定住宅等である既存住宅取得の場合の借入限度額
住宅区分通常の
借入限度額
特定対象個人の
借入限度額
上乗せ額
認定長期優良住宅・認定低炭素住宅3,500万円4,500万円+1,000万円
ZEH水準省エネ住宅3,500万円4,500万円+1,000万円
省エネ基準適合住宅2,000万円3,000万円+1,000万円

令和8年度税制改正大綱pp36~37より引用

この上乗せ措置により、子育て世帯が既存住宅を取得する際の税制メリットは大幅に拡充されます。例えば、子育て世帯が省エネ基準適合住宅(既存)を3,000万円の借入で取得した場合、年間最大控除額は21万円、13年間の最大控除総額は273万円となります。

4-3. 床面積40㎡特例の既存住宅への拡大

今回の改正では、床面積要件についても重要な変更が行われました。従来、床面積40㎡以上という特例は新築住宅に限定されていましたが、今回の改正により既存住宅にも拡充されました(令和8年度税制改正大綱p37)。

床面積要件の構造

  • 原則:50㎡以上
  • 特例:40㎡以上(所得制限:合計所得金額1,000万円以下)

この特例の既存住宅への拡充は、単身世帯や少人数世帯の増加という社会構造の変化に対応したものです。特に都市部においては、40㎡台のコンパクトな住宅も一定の需要があり、こうした住宅も住宅ローン控除の対象とすることで、多様な世帯の住宅取得を支援する意図があります。

ただし、所得制限(合計所得金額1,000万円以下)が付されていることに留意が必要です。これは、比較的所得の低い世帯がコンパクトな住宅を取得する場合に限定して特例を認める趣旨であり、高所得者が投資目的で小規模住宅を取得する場合を排除する機能を持ちます。

4-4. 子育て関連税制全体の中の位置付け

住宅ローン控除の改正は単独で完結するものではなく、扶養控除見直しや児童手当拡充など、子育て関連税制全体の再編の一部として位置づけられます。

5. 省エネ基準適合住宅の段階的縮小

5-1. 令和10年以降の新築における適用除外

今回の改正において、省エネ基準適合住宅については、新築住宅に限り令和10年以降は原則として適用対象外とされます(図表2の注釈※2参照)。

ここで重要なのは、義務化と優遇縮小の間に設けられた時間差です。令和7年4月の省エネ基準義務化から約3年の移行期間を設けた上で優遇を縮小する設計は、市場の調整期間を確保する意図が読み取れます。建築実務や価格形成への急激な影響を避けつつ、段階的に「最低基準」を引き上げる政策手法です。

この措置は、建築物省エネ法の改正により、令和7年4月以降、全ての新築住宅に省エネ基準への適合が義務づけられることを前提としています。この法改正を前提とすれば、令和10年頃には、省エネ基準に「適合しているだけ」の住宅は標準的なものとなり、税制上の優遇対象とする合理性が失われます。

税制改正大綱では、令和10年以降の新築について省エネ基準を満たさない住宅の適用除外が明記されています。これは、税制が省エネ基準適合を「最低限の水準」と位置づけ、より高い省エネ性能(認定住宅、ZEH水準省エネ住宅)を優遇対象とする政策への転換を示しています。

5-2. 段階的な移行措置の設計

省エネ基準適合住宅の適用除外は、令和10年という明確な期限が設定されていますが、実際の適用にあたっては、建築確認の時期を基準とした移行措置が設けられています。

税制改正大綱によれば、「令和9年12月31日以前に建築確認を受ける省エネ基準適合住宅(登記簿上の建築日付が令和10年6月30日以前のものを含む。)又は建築確認を受けない省エネ基準適合住宅で登記簿上の建築日付が令和10年6月30日以前のものの新築等であって、令和10年から令和12年までの間に居住の用に供したもの」については、引き続き住宅ローン控除の適用対象とされます(令和8年度税制改正大綱p36(注3))。

この移行措置の設計には、次の配慮が見て取れます。

  1. 既に建築計画が進行している案件への影響を最小化する
  2. 建築確認から完成・居住までの期間を考慮した猶予期間の設定
  3. 建築確認を要しない小規模建築物への配慮(登記日基準の併用)

5-3. 税制を通じた「誘導」の論理

省エネ基準適合住宅の段階的な適用除外は、税制を通じた政策誘導の一つの形態です。この措置は、次のような政策効果を期待するものと考えられます。

短期的効果:より高い省エネ性能への誘導

令和10年以降、新築住宅で住宅ローン控除を受けるためには、省エネ基準適合を超える性能(認定住宅またはZEH水準省エネ住宅)が必要となります。これにより、住宅事業者は、税制メリットを訴求するために、より高い省エネ性能の住宅を供給するインセンティブを持ちます。

中長期的効果:住宅ストック全体の質的向上

新築住宅の省エネ性能が向上すれば、将来的に既存住宅として流通する際にも、一定の省エネ性能を備えた住宅が増加します。これは、住宅ストック全体の質的向上につながり、カーボンニュートラル目標の達成にも寄与します。

ただし、税制誘導には限界もあります。特に、住宅ローンを利用しない現金購入者や、そもそも所得税額が少なく控除のメリットを十分に享受できない低所得者層に対しては、税制誘導の効果は限定的です。

6. 災害リスクへの対応

6-1. 災害危険区域等における新築の適用除外

今回の改正において、災害危険区域等(災害レッドゾーン)における新築については、令和10年1月1日以降、住宅ローン控除の適用対象から除外されることとなりました(令和8年度税制改正大綱p37)。

税制改正大綱において、「災害危険区域等」は次のように定義されています(令和8年度税制改正大綱pp37-38)。

  1. 災害危険区域(一定の居住用家屋が建築された場合における当該災害危険区域に限る)
  2. 地すべり防止区域
  3. 急傾斜地崩壊危険区域
  4. 土砂災害特別警戒区域
  5. 浸水被害防止区域

ここで注目すべきは、「一定の居住用家屋が建築された場合」という限定が付されている点です。これは、都市再生特別措置法に基づき、市町村長が適正な立地を促すために行った勧告に従わないで建築された場合を指すものと解されます。

6-2. 適用除外の例外措置

災害危険区域等における新築であっても、次の場合は適用除外の対象となりません(令和8年度税制改正大綱p37)。

  1. 従前家屋の建替えによる新築
    • 所有者、配偶者又は2親等以内の親族が5年以上居住していた家屋の建替え
  2. 建築確認時点で土地の全部が災害危険区域等に含まれない場合

これらの例外措置は、既存の居住者の権利保護と、地形の変化等により災害リスクが変動する可能性への配慮を反映したものです。

6-3. 政策の意図:予防的な居住誘導

災害危険区域等における新築の適用除外は、税制を通じた「予防的な居住誘導政策」として位置づけられます。

近年、豪雨災害や土砂災害の激甚化が顕著であり、居住地の安全性が改めて問われています。こうした状況下で、災害リスクの高い地域における新たな住宅建設を税制上優遇することは、将来的な災害リスクを拡大させる可能性があります。

税制による誘導は、規制的手法と比較して緩やかではありますが、住宅取得者の居住地選択に一定の影響を与えることが期待されます。重要なのは、税制による誘導が、直接的な建築規制とは異なる性格を持つという点です。災害危険区域等においても、建築基準法等の要件を満たせば、住宅の建築自体は可能です。税制はあくまで、そうした地域での住宅取得に対する経済的インセンティブを与えないという形で、間接的に居住地選択に影響を与えるにすぎません。

税制改正大綱では、「災害イエローゾーンも含めた立地要件のあり方については、災害ハザードエリアの指定状況も踏まえ、引き続き検討することとする」(令和8年度税制改正大綱p9)と明記されています。災害イエローゾーン(災害警戒区域等)は、災害レッドゾーンほど切迫した危険性はないものの、一定の災害リスクが存在する区域です。今後、災害リスクへの対応が更に強化される可能性を示唆しています。

まとめ

令和8年度税制改正における住宅ローン控除の見直しは、単なる制度の延長や微調整にとどまらず、わが国の住宅政策における構造的な転換を示すものです。

既存住宅優遇の強化という明確なメッセージ

今回の改正の最大の特徴は、既存住宅における省エネ性能の高い住宅への優遇強化です。認定住宅・ZEH水準省エネ住宅の借入限度額引上げと控除期間13年への延長は、既存住宅市場の活性化と住宅ストック全体の質的向上を同時に実現しようとする政策意図を明確に示しています。

人口減少社会においては、新たな住宅建設よりも、既存の住宅ストックを長期間にわたり良好な状態で利用することが、社会全体の資源配分として合理的です。税制がこの方向性を明確に打ち出したことは、今後の住宅市場に大きな影響を与えると考えられます。

カーボンニュートラルへの誘導機能

省エネ性能の高い住宅への優遇強化は、カーボンニュートラル目標の達成という国家的課題への対応でもあります。税制を通じて、住宅取得者の選択を省エネ住宅へと誘導することは、規制的手法と比較して緩やかではありますが、市場メカニズムを活用した効率的な政策手段です。

特に、令和10年以降、新築住宅においては省エネ基準適合住宅が原則として適用対象外となることは、より高い省エネ性能への誘導を明確にした政策です。住宅事業者は、税制メリットを訴求するために、認定住宅やZEH水準省エネ住宅の供給を増やすインセンティブを持つことになります。

子育て支援と災害予防の複合的な政策目的

子育て世帯等への上乗せ措置の既存住宅への拡充は、少子化対策としての住宅支援の強化を意味します。住宅取得は、多くの子育て世帯にとって最大の支出であり、税制による経済的支援は、子育て環境の改善に直接的に寄与します。

また、災害危険区域等における新築の適用除外は、税制を通じた予防的な居住誘導政策として、新たな政策手法を示すものです。災害リスクの高い地域での新たな住宅建設を税制上優遇しないことで、将来的な災害リスクの拡大を抑制しようとする政策意図は、気候変動による災害激甚化が進む中で、重要性を増していくと考えられます。

今後の展望:税制と他の政策手段の連携

住宅ローン控除は、あくまで税制という一つの政策手段にすぎません。既存住宅市場の活性化、省エネ住宅の普及、子育て支援、災害予防といった政策目的を実現するためには、補助金、規制、情報提供、金融支援など、多様な政策手段を適切に組み合わせることが不可欠です。

特に、税制メリットを十分に享受できない低所得者層に対しては、補助金等の直接的な支援策が必要です。また、既存住宅の品質に対する不安を解消するためには、住宅性能表示制度やインスペクション制度の普及、瑕疵保険の充実など、市場インフラの整備が求められます。

今回の税制改正は、こうした総合的な政策パッケージの中の一要素として位置づけられるべきものであり、今後、関連する制度の整備や見直しが進められることが期待されます。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

執筆者プロフィール

1級ファイナンシャルプランニング技能士
CFP®️認定者
1級DCプランナー