令和8年度税制改正大綱が2025年12月に公表されました。第3回となる今回は、「自動車関係諸税の総合的な見直し」について解説します。
今回の改正は、自動車税制において重要な転換点です。令和8年3月末をもって環境性能割が廃止される一方で、令和10年5月からは電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)に対する新たな課税が開始されます。さらに、軽油引取税の「当分の間税率」も廃止されます。
これらは単なる個別の税制変更ではありません。その背景には、「2050年カーボンニュートラル」という国家目標と、米国関税措置という外圧、そして電動化時代における「公平性」の再定義という、3つの構造的要請が交錯しています。大綱pp.25-29に記された「総合的な見直し」という言葉の背後には、行政が直面するジレンマと、自動車税制の抜本的再構築の青写真が含まれています。
本記事においては、「令和8年度税制改正大綱」を引用しつつ、改正の背景や意図について読み解いていきます。
なお、自動車税やガソリン税に関しては、「自動車の維持費ってどれくらい?我が家の自動車維持費を公開します!!」の投稿で詳しく解説しているので、そちらも参照してみてください。
- 自由民主党「「強い経済」への決断と実行令和8年度与党税制改正大綱を決定」
- 自由民主党・日本維新の会「令和8年度税制改正大綱」
- 車の購入を検討している方
- 自動車関係諸税の体系と今後の方向性を理解したい方
- 税制を通じた環境政策・産業政策の本質を知りたい方
- 営業車・社用車を保有する事業者の方
- 環境性能割が令和8年3月31日で廃止される
- 軽油引取税の「当分の間税率」が令和8年4月1日で廃止され、 軽油価格が1リットルあたり約17.1円値下げとなる
- エコカー減税は2年延長されるが、基準は段階的に厳格化される
- 令和10年5月からEV・PHEVに重量ベースの新課税が導入される
- 今回の改正は車体課税・燃料課税を含む中長期的な総合見直しの第一歩である
1. 自動車関係諸税の総合的見直し
1-1. 見直しに当たっての基本的考え方
令和8年度税制改正大綱は、pp.25-29において「自動車関係諸税の総合的な見直し」という章を設けています。この「総合的」という言葉は、行政文書において重要な意味を持ちます。それは、個別の税目を部分的に調整するのではなく、自動車税制全体を俯瞰した上で、体系的・構造的な再設計を行うという意思の表明です。
大綱p.25には、見直しに当たっての基本的考え方として、以下の4つの原則が明記されています。
①安定的な財源確保
「CASEに代表される環境変化にも対応するためのインフラの維持管理・機能強化の必要性、地域公共交通のニーズの高まり等を踏まえつつ、自動車関係諸税全体として、国・地方を通じた安定的な財源を確保することを前提とする」
「令和8年度税制改正大綱」p25より引用
この一文は、今回の改正の最も根本的な制約条件を示しています。今回の見直しに含まれる環境性能割の廃止や軽油引取税の「当分の間税率」廃止により、税収は減少します。しかし、道路インフラの維持管理には継続的な財源が必要です。したがって、何らかの形で税収を補填しなければなりません。その補填の一部が、後述するEV・PHEVへの新課税導入の財政的背景です。
②公平性の確保
「わが国のマルチパスウェイ戦略の下で、多様な動力源(パワートレイン)が併存していくことを踏まえた税制とする」
「令和8年度税制改正大綱」p25より引用
ここで言う「マルチパスウェイ」とは、EV一辺倒ではなく、ハイブリッド車、水素燃料電池車、合成燃料など、多様な脱炭素技術を並行して推進するという表現です。大綱には詳細な説明はありませんが、この背景には、欧州がEV化を強力に推進する中、日本は技術的な選択肢を維持することで産業競争力を保持しようとする産業政策上の判断があると考えられます。
③脱炭素化への積極的貢献
「二酸化炭素排出量抑制により、脱炭素化に向けた取組みに積極的に貢献するものとする」
「令和8年度税制改正大綱」p26より引用
一見すると、原則②の「公平性」と原則③の「脱炭素化」は矛盾するように見えます。公平性を追求すればEVへの優遇は縮小し、脱炭素化を追求すればEVをさらに優遇すべきだからです。
大綱を読み解くと、この矛盾への対応として「段階的な移行」という考え方が見えてきます。現時点ではEVを優遇しつつ(エコカー減税の継続)、将来的にはEVが十分普及した段階で公平な負担を求める(令和10年からのEV課税)という時間軸を設定することで、両者のバランスを取る構造になっています。
④受益と負担の関係の明確化
「自動車関係諸税を負担する自動車ユーザーの理解にも資するよう、受益者負担・原因者負担といった課税の考え方や、これまでの沿革等を踏まえつつ、使途の明確化を図るとともに、受益と負担の対応関係を分かりやすく説明していく」
「令和8年度税制改正大綱」p26より引用
この原則は、税制の「納得性」に関わる重要な論点です。自動車ユーザーが納税に納得するためには、「なぜこの税を払うのか」が明確でなければなりません。
道路特定財源が2009年に一般財源化されて以降、自動車関係諸税の使途は曖昧になりました。しかし、実質的には道路予算の重要な財源であり続けています。大綱は、この「実質的な受益と負担の関係」を改めて明確化し、ユーザーに説明していく姿勢を示しています。
1-2. 中長期的な視点
大綱は、さらに中長期的な視点として以下を示しています。
「その際、中長期的には、データの利活用による新たなモビリティサービスの発展等、自動車の枠を超えたモビリティ産業の発展に伴う経済的・社会的な受益者の広がりや保有から利用への移行等も踏まえる」
「令和8年度税制改正大綱」p26より引用
この一文は、自動車税制の将来像を示唆しています。現在の自動車税・軽自動車税は「保有」に課税する仕組みですが、カーシェアリングやMaaS(Mobility as a Service)が普及すれば、車を「保有」せずに「利用」する人が増えます。保有課税だけでは、こうした利用者から税を徴収できません。
走行距離をベースとした課税等が考えられますが、技術的・社会的な課題が多くまだ多くの議論が必要な領域です。
2. 環境性能割の廃止
環境性能割は、自動車を取得した際(新車・中古車問わず)に、その車の燃費性能等に応じて取得価額の0〜3%を課税する仕組みです。燃費性能が良い(環境負荷が低い)車ほど税率が低くなり、電気自動車などは非課税となります。
環境性能割の導入趣旨は、自動車取得税の廃止(消費税10%への引き上げ時の負担軽減策)と同時に、環境性能の高い車へのインセンティブを維持することでした。つまり、「税負担軽減」と「環境政策」の両立を図った制度だったのです。
2-1. 環境性能割廃止の背景
大綱p.26には、環境性能割廃止の理由として以下が明記されています。
「自動車税及び軽自動車税の環境性能割については、米国関税措置がわが国の自動車産業に及ぼす影響を緩和し、国内自動車市場の活性化を速やかに図るとともに、自動車ユーザーの取得時における負担を軽減、簡素化するため、令和8年3月31日をもって廃止する」
「令和8年度税制改正大綱」p26より引用
この一文には、3つの政策的理由が含まれています。
理由1: 米国関税措置への対応
大綱が「米国関税措置がわが国の自動車産業に及ぼす影響を緩和し」(p.26)と明記している背景には、以下のような政策判断があると考えられます。 トランプ政権が示唆している自動車への追加関税は、日本の自動車産業に深刻な打撃を与える可能性があります。輸出が減少すれば、国内の自動車生産・雇用にも影響が及びます。 こうした外圧に対して、政府ができる対策の一つが「国内市場の活性化」です。
国内で車が売れれば、輸出減少の影響を部分的に相殺できます。環境性能割の廃止は、車の購入コストを下げることで、国内需要を喚起する景気対策としての性格を持っています。
理由2: 自動車ユーザーの負担軽減
物価高が続く中、家計の負担軽減は政治的な優先課題です。300万円の車を購入する場合、1%の環境性能割で3万円の負担になります。この負担を廃止することで、消費者の購買意欲を刺激する意図があります。
理由3: 税制の簡素化
環境性能割は、燃費基準達成度に応じて税率が変わる複雑な仕組みでした。販売店は車種ごとに税率を確認し、購入者に説明する必要がありました。この事務負担を軽減することも、廃止の理由の一つです。
2-2. 環境性能割廃止の財政的影響
環境性能割の税収は、都道府県にとって重要な財源でした。大綱p.26には、以下の記述があります。
「地方税の減収分については、安定財源を確保するための具体的な方策を検討し、それまでの間、国の責任で手当する」
「令和8年度税制改正大綱」p26より引用
環境性能割は都道府県税ですが、その廃止は国の政策判断です。したがって、減収分は国が補填する責任があるという論理です。
ただし、「安定財源を確保するための具体的な方策を検討」という表現は、将来的には別の形で地方財源を確保する必要があることを示唆しています。それが、後述するEV・PHEVへの新課税や、令和10年度以降の自動車税の見直しにつながります。
3. 令和10年度以降の自動車税・軽自動車税のあり方
3-1. 令和10年度以降に抜本的な見直しを検討
大綱p.26には、自動車税・軽自動車税全体の見直し方針が示されています。
「令和10年度以降における自動車税及び軽自動車税の在り方については、その課税趣旨を踏まえつつ、自動車の重量及び環境性能に応じた公平・中立・簡素な税負担の仕組み等について検討し、令和9年度税制改正において結論を得る」
「令和8年度税制改正大綱」p26より引用
EVだけでなく、ガソリン車も含めた自動車税制全体を、「重量」と「環境性能」をベースにした新しい体系に再構築するということです。
具体的な見直しの視点として、大綱p.26には以下の6項目が列挙されています:
- 地方公共団体における財源の安定的確保
- 2050年カーボンニュートラル目標への貢献
- 多様な動力源の特性・普及状況を踏まえた公平性
- バス・トラック等や営業用自動車に対する課税との整合性
- 自動車ユーザーの理解の増進
- 課税実務等への影響
この6つの視点は、今後の自動車税制改正において常に考慮されるべき基準となります。
3-2. EVの自動車税を重量ベースに転換
大綱pp.26-27には、令和10年度以降の自動車税の抜本的見直しが示されています。
「総排気量の値を有しない電気自動車(燃料電池自動車を含む。)の乗用車については、課税趣旨を踏まえた公平性の確保等の観点から、最低税率を一律に適用する現行の自動車税の取扱いを見直し、令和10年度以後に新車新規登録を受けた電気自動車の乗用車に対しては、車両重量に応じた課税方式を導入する」
「令和8年度税制改正大綱」p27より引用
現行の自動車税は、排気量に応じた課税です。しかし、EVには排気量という概念がないため、一律で最低税率が適用されています。道路の損傷性は動力源によらないため不公平感があり、この点を是正するものです。
3-3. 税率水準の設定方針
大綱p.27には、税率設定の方針が示されています。
「電気自動車の乗用車に対する具体的な税率等は、上記の自動車税及び軽自動車税のあり方の検討と併せて令和9年度税制改正において結論を得る。その際、当該税率の平均的な水準については、電気自動車が、相対的に高い財産的価値や道路損傷性を有する一方で、脱炭素化に向けた取組みに積極的に貢献する観点からは更なる普及が求められていること等を踏まえ、電気自動車以外の自動車における現行の平均税率と同水準とすることを基本とする」
「令和8年度税制改正大綱」p27より引用
この一文には、2つの相反する要素のバランスが示されています:
- EVは財産価値が高く、重量も重いため、相応の税負担が必要
- しかし、EVの普及を阻害しないよう、過度な負担は避ける
結論として、平均税率はガソリン車と同水準にするという方針です。これにより、重量の重いEVは高い税率、重量の軽いEVは低い税率となり、全体の平均はガソリン車と同水準ということになります。
大綱p.27には、自動車税のグリーン化特例についても触れられています。
「自動車税及び軽自動車税のグリーン化特例については、現行の措置を2年延長する」
「令和8年度税制改正大綱」p27より引用
グリーン化特例は、環境性能の高い新車を購入した翌年度の自動車税を軽減する措置です(購入翌年度のみ適用)。こちらは2年間延長されます。
4. エコカー減税の見直し
4-1. エコカー減税の継続と基準厳格化
大綱p.27には、エコカー減税(自動車重量税の特例措置)の延長が記されています。
「自動車重量税のエコカー減税については、2030年の次世代自動車(電動車、クリーンディーゼル車等)に関する政府目標や2035年までに乗用車の新車販売に占める電動車の割合を100%とすることを目指す政府目標を踏まえ、電動車の一層の普及促進を図る観点から、減免区分の基準となる燃費基準の達成度を引き上げた上で2年延長する」
「令和8年度税制改正大綱」p27より引用
エコカー減税は、燃費基準を達成した車に対して、自動車重量税を免税または軽減する制度です。令和9年4月末で期限を迎えますが、2年間延長されます。
ただし、燃費基準の達成度は引き上げられます。つまり、現在はエコカー減税の対象になっている車でも、令和9年5月以降は対象外になる可能性があります。これは、段階的に環境基準を厳しくすることで、メーカーの技術開発を促す狙いです。
大綱p.27には、以下の配慮も示されています。
「その際、令和9年5月の引上げに際しては、激変緩和措置を講ずることとする」
「令和8年度税制改正大綱」p27より引用
基準を一気に厳しくすれば、市場が混乱します。したがって、段階的に移行するための激変緩和措置(具体的には税率の段階的引き上げなど)が講じられる見込みです。
4-2. エコカー減税の今後
大綱p.27には、エコカー減税の将来に関する重要な記述があります。
「今後のエコカー減税の期限到来に当たっては、これまでの実施状況、今後期待される成果や制度の意義についての検証を行う。その際、エコカー減税が果たす政策インセンティブ機能の強化、実質的な税収中立の確保、原因者負担・受益者負担としての性格、市場への配慮等の観点を踏まえることとする」
「令和8年度税制改正大綱」p27より引用
この一文は、エコカー減税が永続的な制度ではないことを示唆しています。政策インセンティブとしての役割を果たし終えた時点で、廃止または大幅縮小される可能性があります。
特に注目すべきは、「実質的な税収中立の確保」という表現です。エコカー減税は国の税収を減らす措置ですが、その減収分をどこかで補填しなければ、財政の持続可能性が損なわれます。今回のEV・PHEVへの新課税導入は、まさにこの「税収中立」を確保するための措置と言えます。
5. 利用段階における負担の適正化
5-1. 利用段階の課税
現行制度では、ガソリン車のユーザーは走行するたびに揮発油税を負担しています。一方、EVユーザーは電気代を払いますが、電気には揮発油税に相当する税は課されていません。この点についても、公平性を確保しようとしているわけです。
5-2. 新課税の仕組み
大綱p.28には、具体的な課税方法が示されています。
「納税・徴収実務の簡素化のため、現行の自動車重量税の特例加算分として車検時に徴収することとし、以下を内容とする仕組みを令和9年度税制改正において法制化する」
「令和8年度税制改正大綱」p28より引用
つまり、新たな税目を創設するのではなく、既存の自動車重量税に「特例加算分」として上乗せするという方式です。これには以下の利点があります:
- 既存の徴収システム(車検時の納税)を活用できる
- 納税者にとっても、車検証に記載される形で明確
- 新たな税務システム構築のコストを抑制できる
大綱p.28には、以下の配慮が示されています。
「自動車ユーザーへの周知期間や円滑な執行に向けた準備期間を確保するため、令和10年5月1日を施行日とし、同日以後に受ける車検から適用する」
「ガソリン車について燃料課税を前払いしていないこととの均衡や取得時の実質的な負担軽減等の観点から、新車の新規検査に係る分について本特例分の課税を免除する。既販車については、経過措置として、施行日以後最初に受ける継続車検に係る分について本特例分の課税を免除する」
「令和8年度税制改正大綱」p28より引用
つまり、令和10年5月時点で既にEV・PHEVを保有している人は、最初の車検(施行日以後)では課税されず、その次の車検から課税されるという配慮です。これは、既存ユーザーへの激変緩和措置です。
つまり、令和10年5月時点で既にEV・PHVを保有している人は、最初の車検(施行日以後)では課税されず、その次の車検から課税されるという配慮です。これは、既存ユーザーへの激変緩和措置です。
5-3. 税率の設定方針
具体的な税率は令和9年度税制改正で決定されますが、大綱p.28には設定の考え方が示されています。
「具体的な税率については、異なる動力源間の税負担の公平性の観点から、ガソリン車についてユーザーが平均的に負担している揮発油税及び地方揮発油税の額を踏まえ、令和9年度税制改正において検討し、結論を得る」
「令和8年度税制改正大綱」p28より引用
つまり、ガソリン車ユーザーが年間平均で負担している燃料税額を基準に、税率を設定するということです。
大綱p.28には、さらに以下の配慮が示されています。
「その際、重量と道路損傷との相関の度合を踏まえ、平均的な重量を超える電気自動車等には応分の負担を求める。他方、平均的な重量を下回る電気自動車等については、電気自動車等の普及との両立や、軽量化に向けた技術開発や自動車ユーザーによる選択を後押しする観点から、過度な負担とならないよう配慮する」
「令和8年度税制改正大綱」p28より引用
これは、重量の重いEVには高い税率を、重量の軽いEVには低い税率を適用することで、軽量化へのインセンティブを与えるという政策意図です。
さらに、PHEVについて、以下が書かれています。
「プラグインハイブリッド自動車に係る税率については、揮発油税等を一定程度負担していることから、電気自動車に係る税率の2分の1を目安として設定する」
「令和8年度税制改正大綱」pp.28-29より引用
PHEVはガソリンも使うため、既に揮発油税を部分的に負担しています。したがって、新課税の税率はEVの半分程度にするという配慮です。
この特例分については、さらなる減税はしないことも明記されています。
「本特例分は、異なる動力源間の税負担の公平性を実現する趣旨で設けることを踏まえ、現行の自動車重量税のエコカー減税は、本特例分には適用しない」
「令和8年度税制改正大綱」p29より引用
つまり、この新課税部分には、エコカー減税による免税・軽減は適用されません。EVであっても、この部分は必ず負担する必要があるということです。
5-4. 営業車両の扱いについて
営業車やバス・トラック等に関しては、以下の記載があります。
「営業用車両及びバス、トラック等の車両の取り扱いについては、これらの車両が地域公共交通、物流等の分野において果たしている公共的な役割の重要性や、それを十分に考慮した営自格差等を検討し、令和9年度以降の税制改正において結論を得る。」
「令和8年度税制改正大綱」p29より引用
「営自格差」とは、営業用車両と自家用車両の税負担の差のことです。現行制度では、営業用車両は自家用車両より大幅に税負担が軽減されています。一方で、物流業界やタクシー業界は人手不足で苦しんでおり、税負担を増やせば運送業の経営が悪化して、物流網が崩壊する恐れさえあります。
今回の税制改正では、自家用の乗用自動車のうちのEV・PHEVが対象になっており、営業用車両は対象外になっています。このような中、大綱が「令和9年度以降の税制改正において結論を得る」としているのは、以下の複雑な要素を慎重に検討する必要があるからです。
- 営業用車両のEV化の進捗状況(現時点では、営業用EVはまだ少ない)
- 物流・公共交通の経営状況
- 国民生活への影響(運賃・物価への転嫁)
- 他の支援策(補助金など)とのバランス
ただし、「検討して結論を得る」という表現は、将来的には何らかの負担を求める可能性を残していることも意味します。自家用EVに課税するのに、営業用EVだけ永久に免除するのは公平性の観点から説明が難しいからです。
おそらく、以下のような段階的アプローチが想定されます:
- 令和10年5月: まず自家用のみ課税開始
- 令和9年度税制改正: 営業用の扱いを検討
- 数年後: 営業用にも課税開始(ただし、営自格差を維持した軽減税率)
6. 軽油引取税の「当分の間税率」廃止
6-1. 「当分の間税率」とは何か
ガソリンに関する暫定税率は2025年12月31日に廃止になりました。軽油については、2026年(令和8年)4月1日に廃止の方向です。
ガソリン税が主に国税であるのに対し、軽油取引税は地方税なので、廃止は自治体の予算と密接に関わってきます。年度の途中で税収が激減しないよう、来年度から廃止の予定になっています。
ちなみに、大綱では「当分の間税率」という呼び方がされています。法律上は『当分の間税率』と呼ばれますが、一般的には『暫定税率』として知られているものです。
「当分の間税率」は、1970年代の道路整備5カ年計画の財源確保のため、暫定的な措置として導入されました。しかし、その後50年以上にわたって延長され続け、実質的には恒久税率となっていました。
「暫定」という名目を維持しながら、実態は恒久税として機能する。この矛盾した状態が、長年にわたって批判の対象となってきました。
6-2. 与野党6党合意と廃止の政治的背景
大綱p.29には、軽油引取税の当分の間税率廃止の経緯が記されています。
「令和7年11月5日の自由民主党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、公明党及び日本共産党の6党間での合意に基づき、軽油引取税の当分の間税率を令和8年4月1日に廃止する」
「令和8年度税制改正大綱」p29より引用
政治的には、物価高対策として燃料価格を引き下げることが、国民の支持を得るために必要だったという判断があります。軽油価格が1リットルあたり約17.1円値下がりすれば、運送業やバス・タクシー業界にとっては大きなコスト削減になります。
6-3. 財源確保の課題
当分の間税率の廃止は、ガソリン、軽油合わせて年間約1.5兆円規模の税収減をもたらします。大綱pp.30-31には、この財源確保の方針が記されています。
「令和8年度税制改正では、政策効果等を踏まえた租税特別措置の適正化、税負担の公平性の確保の観点から、
- 賃上げ促進税制の見直し
- 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し
- 教育資金一括贈与に係る贈与税非課税措置の廃止
等を行うこととしており、これらを通じて確保された税収を当分の間税率廃止及びいわゆる教育無償化に係る安定財源として充てるものとする」
「この結果、令和8年度税制改正により約1.2兆円(平年度ベース)の財源が確保されることとなる」
「令和8年度税制改正大綱」p30より引用
つまり、軽油引取税の「当分の間税率」廃止による減収は、他の税制改正(賃上げ促進税制の見直し、高所得者課税の強化など)による増収で補填するという構造です。これは「恒久政策には安定財源」という財政規律の原則に基づいています。
ただし、大綱pp.30-31には以下の留保も記されています。
「これに加え歳出改革等の努力による財源捻出によってもなお不足する財源については、与野党6党合意等を踏まえ、道路関連インフラ保全の重要性、物価動向等やCO2削減目標との関係にも留意しつつ、安定財源を確保するための具体的な方策を引き続き検討し、令和9年度税制改正において結論を得る」
「地方の安定財源については、上記の税制措置による地方増収分を活用するほか、具体的な方策を引き続き検討し、令和9年度税制改正において結論を得る」
「安定財源を確保するまでの間も、安易に国債発行に頼らず、つなぎとして、税外収入等の一時財源を確保して対応するとともに、地方の財政運営に支障が生じないよう、地方財政措置において適切に対応する。」
「令和8年度税制改正大綱」pp.30-31より引用
この一文は、財源確保が完全には決着していないことを示しています。約1.2兆円は確保できたが、それでも不足する分については、来年度以降さらなる検討が必要だということです。
まとめ
令和8年度の自動車関係諸税改正は、単なる個別税目の調整ではなく、自動車税制全体の構造転換の第一歩です。
改正のタイムラインをまとめると以下のようになります。
- 環境性能割の廃止(令和8年3月31日)
- 軽油引取税の当分の間税率廃止(令和8年4月1日)
- エコカー減税の2年延長(基準厳格化)
- グリーン化特例の2年延長
- EV・PHVへの重量ベース新課税(令和10年5月施行)
- EVの自動車税を重量ベースに転換(令和10年度新車から)
- 自動車税・軽自動車税の包括的見直し
自動車関係諸税は、環境政策、産業政策、財政政策、公平性という複数の政策目的が複雑に絡み合う領域です。令和8年度改正は、この複雑な連立方程式の解の一つに過ぎません。大綱に記された「総合的な見直し」という言葉は、今後も継続的に制度が変化していくことを予告しています。この制度変化の方向性を理解することが、長期的な視点に立った賢明な意思決定の基盤となります。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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